やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

フィジー情勢と展望

(2009.5に書いた文章です。)

フィジー情勢と展望

4月10日、フィジーのイロイロ大統領が憲法を廃止したニュースは日本でも流れたようで、どうなっているのか?というメールもいただきました。力量不足ですが、最近の関連記事を参考に下記にまとめさせていただきました。

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 4月、イロイロ大統領から再度首相に指名されたバイニマラマ氏は2014年まで選挙を実施しないことを宣言。早期の選挙実施を要請してきた地域政府機関太平洋諸島フォーラム(PIF)は、5月1日フィジーのメンバーシップを保留する事を決定した。今後フィジーPIFの実施する会議に参加できず、また PIFが行う資金・技術支援も受けられない。

 2006年の4度目のクーデター後、 PIFはフィジーに対し選挙の実施を促してきた。しかし、今まで豪・ニュージーランドの強い姿勢を牽制していたパプアニューギニアのソマレ首相も、4月末ラッド首相との共同記者会見では態度を一変させた。他方、キリバスのトン首相は豪・ニュージーランド抜きで対話を進めるべきだ、とのコメントを出している。

 PIFがメンバーシップを保留するのは設立以来初めての事。PIFはフィジーの故カミセセマラ初代首相が’71年に創設した地域機関で本部もフィジーにある。

 

 1987年から繰り返し起るフィジーのクーデターが人口の半分を占めるインド人対フィジー人の民族対立だけではないことは、もう理解されていると思う。米領サモアの議員はクリントン長官に「フィジーの問題は複雑であり、豪ニュージーランドの意見ばかり聞いてはいけない。」とアドバイスしたとの報道もあった。では、どのように複雑なのか。それは、西の酋長と東の酋長の権力闘争であり、酋長達と平民との闘争、酋長と軍人の共謀と反逆、自由市場と伝統的な土地制度の摩擦、等々である。さらに1回目のクーデターは労働党政権の非核運動に対する米国政府からの圧力、という噂もある。

 現在太平洋島嶼国で軍隊があるはフィジー、トンガ、パプアニューギニアの3カ国だけだ。これらの軍隊は豪・ニュージーランドで訓練を受け、兵器の支援も受けている事は皮肉な結果である。

 今後の動きについて3点。

1点目、今月北海道で開催予定の第5回島サミットは日本政府と PIFの共同事業との位置づけなので、 主催国日本が強く働きかけない限りフィジーの参加はないであろう。先週豪州を訪問した中曽根外相はフィジーに関しては、制裁よりも対話、という姿勢を示した。

2点目。フィジーは中国、インドとの関係をさらに強化することが予想される。他方中国も PIFと足並みを揃える方針なので、今後の中国の動きは見逃せない。なお中国も今年島サミットを開催する予定だ。

3点目。フィジーに集まる国際組織(南太平洋大学、 PIF事務局、国際NGO、国連機関等)の機能がさらに低下することが予想される。それは太平洋の地域協力の動きを変えることになるであろう。

 最後に「有言実行主義」の島嶼基金は何をすべきか?

 政治的な問題に直接関わるのは難しいかもしれない。しかし、フィジーの政情が決して安定していたとは言えない90年代、島嶼基金は弛まず積極的に南太平洋大学を支援し、ジャーナリストの交流も活発に行ってきた。今後暫く政府レベルでの支援が滞る可能性がある中で、フィジー及び近隣島嶼国と日本の民間交流を維持し、あらゆるレベルでの教育を継続的に支援することが基金の役割だと考える。

 早速だが、この5月、基金が日本に招聘するフィジー人ジャーナリストはフィジー暫定政権国防大臣、外務省閣僚が親戚だ。人間関係が濃密な島嶼では、民間外交も決して侮れない。

(2009年5月5日,文責早川理恵子)