やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

米国がインターネットギャンブルを禁止するとバヌアツの全離島に電話が通じる

<第三話>

「米国がインターネットギャンブルを禁止するとバヌアツの全離島に電話が通じる」

 2007年3月21日。私は出張でバヌアツのTelecom Vanuatu Limited(TVL)の責任者にインタビューをしていた。TVLはイギリスのケーブル・アンド・ワイヤレスとフランス・テレコム、そしてバヌアツ政府の3者が株主の会社で、通信独占権を有する。英仏がニューへブリデス島(植民地時代の名前)を共同統治していた名残でもある。

 責任者は現在離島に対して提供している電話サービスは既に60%の赤字を出しており、ユニバーサルサービスなんてとんでもない、と説明。

 わずか1年後、バヌアツ政府が競争を導入し、バヌアツ全離島が携帯電話でつながるとは、その責任者も私も想像もしていなかった。

 複合的な背景があるが、大きな要因の一つが2005年から2006年にバヌアツ政府がPacific Data Solution(PDS)というインターネットギャンブル会社にライセンスを発行したことに始まる。

 PDSはバヌアツに地上局アンテナを設置し、衛星経由でギャンブルを展開。この新たな通信回線設置が通信の独占契約に違反する、とTVLが政府を訴えたのである。

 裁判の結果、インターネットギャンブルは特定の顧客相手へのサービス、他方TVLの独占契約は「パブリック」が対象なので、違法ではない、との判決がされた。これをきっかけに政府はICT政策案を策定、電気通信法改定へと動いた。

 2006年、アメリカでオンラインギャンブル禁止法案が可決。多くのオンラインギャンブル運営会社が海外へ。タックスへブン、オフショアバンキング、マネロンで名高いバヌアツを目指した事は想像に難くない。(ここは裏付け調査がまだです。)

 現在バヌアツデジセルTVLの2者が競争。但し、今まで「離島に電話サービスなんて無理」と言っていたTVLを離島の人たちは赦せないようで、その殆どがデジセルを利用しているという。

(文責:早川理恵子)