やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ムルロアの悲劇

ムルロアの悲劇

 太平洋の仏領ポリネシアはソシエティ諸島、マルケサス諸島、オーストラル諸島、ガンビエ諸島、ツアモツ諸島と島々が散在し、503万㎢のEEZを所有する。

 その中の一つ、ムルロア環礁で1966年から1996年の30年間、約200回の核実験が行われた。

 核の被害は長くベールに包まれてきたが、サルコジ大統領になって、やっと賠償の動きが出て来た。

 しかし、核実験の傷は広く、深い。

 この地で半世紀以上考古学調査をしてきた、ハワイのビショップ博物館の篠遠喜彦博士に伺った話だ。

 各離島では現金収入の道がほとんどなく、多くの男達が核実験の建設現場へ駆り出された。今まで見たこともない現金を手にした男達はつかの間の息抜きのつもりで、町で酒、女、ギャンブルに手を出し、溺れていく者もいた。

 島に残った女達は船が港に着く度に、いつ帰るともわからない男の姿を探す求めた。

 それだけではない。親のない子供が多く生まれ、青少年非行が増加。島の価値観も崩壊していく。

 ムルロアの悲劇は仏領ポリネシアの社会に深く、広く、刻み込まれている。

 観光パンフレットにある「夢の楽園」のイメージとはほど遠い話だ。

 が、明るい話もある。

 今年3月に、ハワイからタヒチを結ぶ5千キロの海底通信ケーブル「ホノトア」(Honotua)が施設された。これでギガバイトで世界に繋がる。

 島の人々が情報に自由にアクセスでき、自分たちからも情報が発信できれば、将来、核実験のような悲劇を避けることができるかもしれない。

 約5千年前に台湾周辺から旅立ったオーストロネシア語族は約3千年後、マルケサス諸島辺りまでやってくる。それから千年、北はハワイ、東はイースター島、西はニュージーランドまで海を渡り、ポリネシア・トライアングルを形成する。

 5万年の人類拡散の歴史が終止符を打った瞬間だ。これで人類は地球全土を制覇したことになる。

 仏領ポリネシアの人々の祖先は勇敢な冒険者、航海者であった。

(文責:早川理恵子)