やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

海洋安全保障の新秩序構築研究会 ― 軍事と非軍事の境界

 私が提案し笹川平和財団として新たに立ち上げようとしている「海洋安全保障の新秩序構築研究会」は主に非軍事的手段による新秩序を模索する。

 なぜか?

1.冷戦終結後安全保障が多様化した。例えば、主体が国家から国家以外の犯罪組織などに。非対称脅威、非伝統的安全保障とかいろいろ議論されている。

2.問題を抱える地域は太平洋島嶼国のような広大な、若しくはアジアのような入り組んだEEZ を自ら管理できない途上国や小国の海洋である。背景には貧困の問題もある。そこに軍隊が出て行く事の非対称性がある。

3.そもそも海洋問題とは環境問題であった。徐々に安全保障分野に広がった。即ち軍事的アプローチありきの世界ではない。

 

<英国式軍隊>

 軍事と非軍事をどのように議論するかが本研究会の課題の一つである。 

 ANCROSのチェメニ教授に伺った。

 英国式軍隊は、軍事、外交、法執行の3つ機能が混在しているのだそうだ。そしてこれが世界の主流だとも。米国式コーストガードが逆にユニークな存在とのこと。他方、米国のコーストガードは有事には軍隊の指揮下に入るが日本はきれいに線引きされている。日本式はさらにユニークである。

 アジアの海上保安庁設置背景には日本からの資金援助受け皿として立ち上げた背景がある。日本は軍事協力ができないからである。豪州はできる。

 アジアに新設された海保は過去に機能してきた海軍と、予算、権限の取り合いなど問題が発生している。この辺りは海保立ち上げを支援した日本側の意見を聞く必用があるだろう。

 海洋政策財団の秋元論文(下記参照)は英国同様、海上自衛隊に法執行権を持たせることが議論されている。海保はどうするのか伺ってみたい。同論文には海洋の母ボルゲーゼさんが「国連海洋法条約と海軍は離婚した状態にある。健全な海軍力による貢献なくして海洋の平和はあり得ない」と指摘した、とある。「健全な海軍力」とは何を意味するのかも秋元さんに伺ってみたい。

 

<豪州の海洋安全保障体制>

 豪州のコーストガードについて以前まとめた。完全なボランティア組織であった。法執行権はどこが持っているのか。

 まだ明確ではないが、国防省、国税国境警備局、そして運輸省にある海洋安全局と、オーストラリア人さえ説明できないほど多くの部署が交差している。

 さらに各部署間に明確な線引きはなく人も船も貸し借りする関係らしい。指揮系統も法立上の明確さがない、と聞く。

 おそらく、豪州の軍隊が英国式を取っている事が同国の海洋安全保障の複雑さの要因のひとつではないか、と推測する。少ない人数で広大なEEZと沿岸を守らなければならない事情もある。

 軍隊が法執行権も外交も担うのが前提であればそのままでいいじゃないか、と思うのだが、それは武器を持った軍人がいくらウグイス嬢作戦で笑顔をふりまいても歓迎されないケースがあるのであろう。PPBが王立豪州海軍から関税局に移管するのはよい例である。

 

<軍事vs非軍事を機能で議論する>

 本研究会では、立命館大学佐藤洋一郎教授に10月ご講演をいただくことになっている。軍事vs非軍事を組織ではなく機能の切り口で分析していただく予定。これはよいアイデアだと思った。

 インド海上保安庁元長官のパレリ論文にはコーストガードの起源は王国か豪族が設立された際に、海賊から沿岸を守るために雇われた人々辺りが起源であろう、そしてそのコーストガードは他者にとっては海賊であったであろう、と書かれている。イギリスを海洋国家に導いたエリザベス一世の僕、海賊フランシス・ドレイクの世界でしょうか?

 パレリによれば、コーストガードについてまともに研究した論文はない、そうだ。

 以上、軍事も海洋問題も専門でなく、聞きかじり、読みかじり情報なので今後、専門家のご意見、資料調査等で裏を取り、少しでも正確に理解して行きたいと思います。

 

<参考資料>

高井晉、秋元一峰、「海上防衛力の意義と新たな役割 - オーシャンピース・キーピングとの関連で - 」防衛研究所紀要、第1巻第1号、1998年6月

http://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j1-1_5.pdf

 

Dr Prabhakaran Paleri, “COAST GUARDS OF THE WORLD AND EMERGING MARITIME THREATS” Ocean Policy research Foundation, 海洋政策研究特別号、2009年