やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

一千七百万円の助成金が百七十億円の補助金に

一千七百万円の助成金が百七十億円の補助金

 笹川太平洋島嶼基金は1998年から2000年の3年間、ハワイ大学が実施する「遠隔教育推進のための情報通信技術・応用訓練」に17,425,785円の助成を実施した。

 この助成事業により、サイパン、グアム、米領サモアの全ての学校と病院が電話回線とインターネットにつながる結果となった。

 先日、情報通信学会の研究会で助成先ハワイ大学事業担当者、クリスティーナ・ヒガ女史の発表を聞く機会があった。

 1998年から2009年にサイパン、グアム、米領サモアが米国の通信補助制度で受領した補助金は約170億円だそうだ。

 勿論基金助成金だけが要因ではないが、単純に考えればこの10年で約千倍の効果があった、とういうことだ。

 米国は通信の自由化を進める中で、教育・医療・低所得者・高額地域等を対象とするユニバーサルサービスの制度を確立した。非常に複雑な制度である。一言で言えば市場経済を促進しつつ、福祉経済を同時に義務づけ、公共のバランスを取って行こうとするものである。

 まずこの補助金を得るには、2つ以上の電話会社が競争をしている状態が必用になる。米領サモア、グアム、サイパンも太平洋島嶼国同様長期間の独占契約が政府と電話会社の間で締結されていた。政府は契約を破棄するため、通信会社に賠償金を払って通信法を改訂する必用がある。

 さらに、補助金を受ける学校がどれだけ貧しいか、というような証拠を揃えなければならない。いくつか方法があるようだが、Food Stampという食料補助の書類を学生から集める。

 加えて、競争状態にある電話会社からの見積りを自ら取らなければならない。どれだけ回線、容量が必要で,ネットワークデザインをどうするか。通信の「つ」の字も知らなかった教育関係者が通信の技術、政策、コンテンツについて学ぶ必用があるのだ。そもそもこのような補助制度があることも知らなかったのだ。

 こうしてできた申請書類は1メーター位の厚さになるという。ハワイ大学の専門家達がどのように申請すればよいか、手取り足取りで指導した結果である。

 幸い、現在は自分たちで申請書を作成できるレベルまでなったそうだ。

 ところで、この助成事業の対象地域は米領のグアム、サイパン、米領サモアではなかった。上記のユニバーサルサービス補助金は予期せぬ成果、であった。本来はミクロネシア3国を対象とした遠隔教育を促進するための通信制度改革を目指していたのだ。

 結果としてパラオのナカムラ大統領(当時)のイニシアチブにより、遠隔教育ネットワークのODA案件を策定。日本政府に申請した。残念ながら支援はなかったが、これが一つのきっかけとなってミクロネシアの地域協力の枠組みが形成されたのである。

(文責:早川理恵子)