やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島嶼国の歴史教育

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  金の切れ目が縁の切れ目にならないように、過去の助成先をなるべくフォローする努力をしている。助成した案件が継続し、発展する姿を見るのは自分の子供の成長を見る様に嬉しい。

 さらに嬉しいのは、あちらからわざわざ報告をいただく時だ。

 

<太平洋島嶼国の歴史教材作成支援>

 笹川太平洋島嶼国基金は1996年から、太平洋の歴史教師による太平洋島嶼国の歴史教科書作りを支援してきた。助成額は総額で56,833,482円。2002年までの7年間に亘る支援。

  そもそも学校教育がなかった所に旧宗主国が持ち込んだ教育は価値観も内容も彼ら、即ちヨーロッパのものであった。太平洋島嶼国は独立後もヨーロッパ中心の歴史教育をしてきたが、当然それでよいと誰も思わなかった。

 ユネスコがこの状況を変えるべく、各国の教育大臣を集めて何度も会議を開催したが、なんのアクションも起こらなかった。この会議に参加し、問題を理解したオーストラリア、ニューサウズウェールズ大学のグラント・マッコール教授が、現場の歴史研究者を集めた、島の人が語る島の歴史を書こう、という動きを支援したのがこの事業である。

  結果として太平洋島嶼歴史教師連名が設置され、太平洋島嶼国の歴史教材が作成されたのである。

 

<歴史教材がオンラインでフリーアクセス>

 同事業の中心メンバー、アソフォオ・ソオ博士は今出世してサモア国立大学学長になった。また、コーディネーター役のマックス・クアンチ博士は南太平洋大学で教鞭を取っている。助成が終了しても事業はシッカリ継続していた。

  先日このクアンチ博士から最新版の歴史教材が友人伝に手元に届いた。しかもオンラインで誰でも、無料で、アクセス、利用できるようになっている。

 Topics from Oceania Units for Junior Secondary School History

 

 <Ethics of Knowledgeと日本の役割>

 日本の財団として豪州と太平洋島嶼国の関係を強化することは当然ながら不服であったので、日本オセアニア学会の協力を得て、法政大学の山本真鳥先生と宇都宮大学の柄木田康之先生に参加していただいた。下記に報告書がある。

 太平洋教育フォーラムに参加して ―法政大学教授 山本 真鳥―

太平洋教育フォーラム・ホニアラ会議に参加して ―宇都宮大学助教授 柄木田 康之―

  残念ながらこの事業に日本の研究者が具体的な形で参加することはなかった。しかし、これからも太平洋島嶼国の歴史教育の発展に外部からの支援が必用なこともあるであろうから、若いオセアニア研究者が、太平洋島嶼国を単に研究対象として見るだけでなく、研究の成果を現場に裨益することを期待したい。

 このことは特にここ数年、アカデミックの中で(主に医療分野のようであるが)”Ethics of Knowledge”について議論が盛んであることからも喚起していきたい。