やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ニュージーランド防衛白書

 2010年11月2日、13年ぶりにニュージーランドの防衛白書が発表された。

クリントン長官がNZを訪ね、防衛を含む二国間の協力関係の強化を明示した「ウェンリントン宣言」に署名したのが11月4日。発表から2日後だ。

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ニュージーランドの軍事費はGDPの1%。

アジア太平洋地域の中でも一番小額に属し、軍人は1万人にも満たない。

戦闘機等も削減し、同白書では2009年のオーストラリアの国防白書にあったような“ショッピングリスト”は見られない。即ち軍事力拡大は検討されていない。

国土は日本の4分の3。人口は4百万人強と小国だが、EEZは日本に次ぐ第7位で4百万㎢。

その他に自由連合協定を結ぶクック諸島、ニウエ、トケラウの防衛義務を負う。クック諸島は2百万㎢のEEZを保有する。

加えて、同国が領有権を主張するロス海属領が南極にある。

南極条約によってこの主張は凍結されているが、ニュージーランドはスコット基地を設けている。

日本の海上保安庁よりも小規模な能力で日本のEEZ以上の海域を守る必要があるということだ。

広大な海域以外にニュージーランドが守るべきものは何か?

隣国のオーストラリアも南太平洋島嶼も脅威ではない。しかしこれらの政情不安や自然災害、人道危機を挙げている。

なお、同白書には東南アジアに関して全く述べられていない。

興味深いのはANZUSについては触れられていないが、FPDAについては2009年の豪州防衛白書にあるよりも強調して述べられていることだ。

FPDA-The Five Power Defence Arrangementは1971年に締結されたイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア間の軍事同盟。5カ国は英連邦メンバー国である。このFPDA以外にPIFの枠組みも、重要視している。

余りにも小さな国防力のニュージーランド。その国防白書に大きな変化を期待する方が無理かもしれない。

本白書では、豪州を「安全保障上最も重要なパートナー」と呼び、米国を「安全保障上身近なパートナー」と呼ぶ。

核持ち込みにノーと言ってANZUS同盟を反古にし、25年後米国と「ウェンリントン宣言」に署名したニュージーランド。他方、米軍の核持ち込みを密約で受け入れ、日米同盟の呪縛に苦しむ日本。置かれた立場も環境も全く違うが、自立(自律)外交の在り方として考えさせられた。

 

NZ Defence White paper

http://www.beehive.govt.nz/feature/defence-white-paper-2010

 

(文責:早川理恵子)