やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『海上保安法制』海洋法と国内法の交錯(1)

『海上保安法制』― 海洋法と国内法の交錯

編集代表 山本草二 三省堂、2009年

 

 年明け、日本の協調的安全保障を主張した「樋口レポート」を書かれた渡辺昭夫先生に確認が取れた。

 同報告書の中で、海上保安庁と海上自衛隊の協力を述べていらしたが、これら2機関の役割等をどうお考えか?

 意外なことに渡辺先生からのお返事は、

「coast guard特に日本の海保についての学問的研究は弱い。」

 日本の安全保障の大家が言うのだから間違いはない。

 

 同時に以前から気になっていた『海上保安法制』がやっと手元に届いた。

 てっきりバイブル的存在、と想像していたが、はしがきの日付は2009年3月とある。できたてのホヤホヤ。

 やはり海保についての学問的研究は弱いのか。

 同書に興味を持ったのは、米国のPosse Comitatus法に代わる法律、日本の海上保安庁が軍事力ではなく、法執行組織として在り方が議論がされているようだったからだ。

 

 村上暦造氏の論文「海上保安庁法の成立と外国法制の継受」がそれである。 

https://www.jinji.go.jp/sousai/018/murakami.html

 

  戦後の日本への密航、密輸、特に朝鮮半島で蔓延していたコレラの侵入を防ぐため、連合軍覚書に基づき昭和21年不法入国船舶監視機関が設置され、昭和23年航海の安全や海上治安の維持と言った一元的管理をするための海上保安庁が発足した。

  占領下、海軍類似の実力組織を整備することへの警戒感から、特殊規定が設けられた。第25条である。米国のPosse Comitatus法に対応しうる規定とも解釈できるであろう。

 

第25条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。

 

 同条項は今も維持されており、村上氏は現在においては「海上保安庁が軍隊というものと異なった機能を果たすものであるということを表す規定として、実質的な意味を有するものと解すべきである。」と主張し、引き続きコーストガードの成立、コーストガードの存立基盤をテーマに論を展開する。

 

 何回かに分けてこの村上論文を整理してみたい。

 繰り返すが、専門分野ではない。

 大きなジグゾーパズルの全体像を知らないで小さな破片をつなぎ合わせているような作業だ。よい参考資料、図書があればご教示下さい。