『海上保安法制』― 海洋法と国内法の交錯 (3)
編集代表 山本草二 三省堂、2009年
村上論文「海上保安庁法の成立と外国法制の継受」メモの3回目。
「I. 海上保安庁法の成立」「II.コーストガードの成立」に続き「III.コーストガード存立基盤」をまとめたい。
要点は2点。
1. コーストガードの歴史が新しいのは、20世紀になって、存立基盤である領海及び接続水域概念の確立と共に法執行海域、即ちコーストガードの任務が整備されてきたからである。
2. 海上における法執行の主体は軍ではなく、コーストガードに委ねる、というのが多くの国の動向である。
<領海の法的性格>
19世紀以前
ヨーロッパ諸国では領海は中立水域、という理解。沿岸国が海岸線よりも外側の海域の 国内法令をどのように適用・執行できるか議論はなかった。
19世紀後半
距岸3海里の海域が沿岸国に属する事は認めるも、領域主権は及ばない。沿岸国が行使で きるのは防衛・安全・歳入・漁業に限定。
1876年~1900年
フランコニア事件の判決を受け、領海の法的性格を巡り大論争。結果、領海が沿岸国の領 域主権に服する。
1930年
ヘーグ国際法法典化会議で「接続水域」合意
1958年
領海条約で接続水域で沿岸国が執行管轄権が確立
<Posse Comitatus Act.>
村上論文は、米国のPosse Comitatus Act.を例にあげ、多くの国が軍に法執行をさせることを避けている、としているが、ウーロンゴン大学チェメニ教授からの情報とは違う。チェメニ教授は英国式は海軍が軍事・法執行・外交までもカバーし、これが世界の優勢である、という。
なお、Posse Comitatus Act.については既にブログにまとめてあるので省略する。
Posse Comitatus Act.の適用除外として、憲法又は連邦議会法が認めるならば軍を法執行に使用することができる、と認めている。
Posse Comitatus Act.の適用除外の弊害
1) 伝統的な軍と法執行機関の役割を曖昧にする
2) 軍に対するシビリアンコントロールを形骸化する
3) 軍が有すべきmilitary readinessを損なう
所感:
軍が法執行権を有するかどうかはもっと多くのペーパーを見て行かなければ議論できない。
しかし、前回のキャンベラ出張で、国防省のシビルパートは当方の質問に明確に「法執行権は国防省の外に移管する」と述べた。即ち通関国境警備局への移管だ。
海洋問題は2つの大車輪から成る、とご教示いただいたのは立命館大学の佐藤洋一郎教授だ。一つはIMOを中心とする海運業界、もう一つは米国軍を中心とする海軍業界。法執行はこれからどこに位置するのか。もしかしたらstatus quoの変革が始まっているのかもしれない。