やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

未来に魚を残すために

<メディアで取り上げられる漁業資源>

 太平洋島嶼国での日本の国益と言えば、安保理等国際社会での支持票確保、プルトニウムを含む海上輸送路の確保、そして漁業資源の確保、この3本柱である。

 私はこれらの問題に直接関わって来なかったが、2008年からミクロネシアの海上保安事業を開始し、特に島嶼国にとって主要国家収入源である漁業資源について、無視できなくなった。

 それまでは、日本の水産庁がしっかりカバーしていること。またメディアで語られるように、中国の巨大胃袋が、また口蹄疫やヘルシー指向の代替タンパク源として欧米諸国が、「日本文化」である魚資源を脅かしている、という図式がすっかり頭に刷り込まれていた。よって日本の責任について考えたこともなかった。

 

<ミクロネシア海上保安事業で気づかされた事>

 しかし、ミクロネシアの案件に関わるようになってからどうも様子が違う事に気づいた。最初、米豪からの反応は「違法操業をしている日本がミクロネシアの海上警備ですって、冗談でしょう。」という辛辣な反応。ミクロネシア諸国はここまではっきり言わないが、本音の会話では日本が違法操業を取り締まるのか?という反応であった。

 日本のメディアには全く出て来ない、太平洋での日本漁船の実態をどうしても把握しておく必要がある、という強い気持ちが湧いてきた。

 

勝川俊雄先生のブログとの出会い>

 ウェッブサーフィンをしている中で出会ったのが三重大学の勝川先生のブログである。まず一般の消費者や漁師さんも対象に書いているのでわかりやすい。私でもどうにか着いて行ける。それからデータが豊富である。

 そこで知ったことは違法操業どころではない、行政も巻き込んだ漁獲高の不正申請。漁協のアカウンタビリティの問題等々、最初は俄に信じられない内容ばかりであった。

 しかし、多くのデータを根拠に論を展開する勝川先生のブログには説得力がある。それに学者は論文を書いてなんぼの世界で、社会問題を提議し続ける姿、即ち一銭にもならないことに情熱を傾ける勝川先生に段々傾倒してしまった。まだ30代半ばでいらっしゃる。

 

<未来に魚を残すために>

 そんな中、日本財団が「NF-UBC ネレウス・プログラム」を開始することになった。やっぱり漁業資源管理は世界的なテーマなのでは、という思いが強くなっている。しかも日本の漁消費量は世界でダントツなのだ。

 勝川先生は言う。行政のせいばかりにしてはいけない、政治、国民、漁師、特に消費者の意識を変える必要がある。

 その情熱はどこから来るのですか?と聞いてみた。

「自分の息子においしい魚を食べさせたいんです。」

その思いは誰もが共有できるだろう。