やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

天皇メッセージと『海上の道』

天皇メッセージと『海上の道』

 ロバート・エルドリッジ博士著『沖縄問題の起源』名古屋大学出版2003)を読んだ。

戦後の沖縄について天皇が米軍の軍事占領継続を希望するメッセージを出していた事がここに詳しく書かれていると、琉球大学のある先生から伺っていたからだ。

 全てについて共通することだが、大きな文脈の中で一部だけ切り取って聞くと、大きな誤解が生じかねない。

 今回この本を読んで当時の米国の動きを知り「天皇メッセージ」は著者の見解のように、天皇が沖縄の喪失を阻止しようとした必死の説得だったと思う。

 外務省も沖縄が日本の一部であることを歴史的、民族的資料をかき集め理論武装していた。

 ここでハタと気付いたのが柳田国男の『海上の道』である。なぜ柳田国男「単一民族神話の起源」に加担するような、科学的根拠の薄い日本人の始祖の一つとして話しを展開したのか、ズーッと気になっていた。

 沖縄に詳しい柳田国男終戦直後、沖縄は日本であるという外務省の資料作成に協力している可能性はある。天皇メッセージを知っていた可能性もある。

 1952年4月28日講和条約発効の約2週間後、5月11日の九学会連合大会で柳田は「海上の道」の講演を行っている。柳田の南方説は戦後、より鮮明に、より強烈になる。

 あやふやな沖縄と日本の関係のことを柳田は百も承知で、戦後の日本を守るために歴史の大編集作業を行ったのではないか。それが『海上の道』である。そうであれば納得できる。 柳田国男にとって歴史とは、土器や骨やDNAの物的証拠が語るものではなく、人間が記憶に残したいと思う事や、そうであって欲しい、そうである必要がある、と思い念ずる物語の編集であったように思う。

 この大編集作業が終わったのが、1961年。柳田が没する一年前である。