やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋島サミット2012-人の移動

太平洋島サミット2012-人の移動

 先日発表された太平洋島サミットへむけた提言の中で見落とされている点がある。

ここ数年豪州NZで注目され、今米国とミクロネシア3カ国の間に問題になっている島人の移動、島嶼国からこれらメトロポリタン諸国への移動である。

 次の数字は順にNZと本国に居住している人口、そして両者の割合である。2001年国勢調査

  

 トンガ   40,716   101,700   0.40

 サモア  115,017   178,800   0.64

 クック   52,566   17,800   2.95

 トケラウ   6,204     1,500   4.14

 ニウエ    20,148     1,650   12.21

 サモア、トンガは本国の人口の約半分がニュージーランドに居住。クック諸島、トケラウ、ニウエに至っては本国の人口の何倍もの人々がニュージーランドに住んでいるのである。

 ミクロネシア3国とアメリカも似たような数字である。

 この溢れ出る人口をどのように調整するかが島嶼国支援の鍵であることをいち早くニュージーランドが指摘し、ツバル、キリバスを含む特定の島嶼国から毎年上限を決めた移民を受け入れている。また葡萄摘み等の季節労働者の受け入れも数年前に開始し、順調に進んでいる。この季節労働者スキームに当初懐疑的だったオーストラリアもNZに続き新たな支援を提示した。

 日本は海外労働者や移民受け入れの経験や政策が基本的に弱いようだが、留学生でも季節労働者でも某かの方法で島嶼国の人口を受け入れる支援を検討する必要はないか?

 小さな経済規模の島嶼国は、多分そに人が住み始めた数万年前から資源管理が最重要課題であったはずである。特に人口の調整だ。これはジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』が詳しい。

 島の人々は数千年前から数千キロの海洋を行き来してきた。理由はいろいろ議論されているが、一つは資源を求めて、新たな植民地を探してであろう。当時より交易、交流が盛んであった。

 これが西洋の植民地支配と共に困難なり、国家として独立した現在は国境が、即ちビザやパスポートがなければ外に行く事ができなくなってしまった。昔はカヌーに食料を積み込んで自由に出かける事ができたのだ。国家という概念が島嶼国を縛っている、とも言える。

 

 以前ミクロネシアセミナーのヒーゼル神父の研究発表で、人口調整ができていないメラネシア地域で政情不安が頻発しているのに対し、米国にアクセスのあるミクロネシア諸国とニュージーランドの移民枠のあるポリネシア諸国は比較的政情が安定していることが指摘された。

 島嶼経済の特徴は地元経済よりも海外送金の方が大きいことだ。国境を越えて、人のモービリティを促進する事を考えた方がよい。環境破壊や文化破壊につながる無理な開発をしなくても済むかもしれない。