やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「移動する太平洋の島の人々」(4)

(2012年1月琉球大学国際沖縄研究所のご招待で講演させていただいた内容を同研究所の許可を得て掲載させていただきます。) 「移動する太平洋の島の人々」(4) 琉球大学国際沖縄研究所:IIOS レクチャーシリーズ2011第6回 2012年1月10日(火) 18:00~19:30 (於てんぶす那覇4Fテンブスホール)
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 まず独立国ですが、パプアニューギニア、フィジー、バヌアツ、サモア、ソロモン、トンガ、ツバル、ナウルキリバスです。ただし、この中で元首に外国人を迎えている国があります。パプアニューギニアとソロモンとツバルですが、どこの国だと思われますか。イギリスのクイーン・エリザベスが元首なのです。またフィジー、トンガ、バヌアツ、サモアキリバスナウルクック諸島、ニウエも英連邦、すなわちイギリスの連邦、ブリティッシュコモンウェルスのメンバーになっています。太平洋の島々は旧宗主国、英国との関係を非常に重視していると言えると思います。  それから皆さんにもなじみの深い国々だと思うのですが、ミクロネシアマーシャル諸島ミクロネシア連邦パラオ、これらの国々は80年代、90年代に独立しましたが、米国との自由連合協定という条件のもとに独立しています。まだ冷戦時代でしたから、端的に言いますと、米国に安全保障と外交をゆだねるという条件のもとで、米国から財政支援とそれから米国への移動の自由を認めてもらうといった条件で独立を果たします。  実はこの自由連合協定という政治的な地位は、戦後国連で制定された制度なんですが、最初にニュージーランドがこの制度を利用してニュージーランド領であったクック諸島、ニウエと自由連合協定を締結し自治を確立させます。トケラウはまだニュージーランド領で、今まで島民投票をしています。島民の判断でいまだにニュージーランド領です。  ニュージーランドとこれらの島々の関係ですが、ニュージーランドのパスポートを持っており、市民権もある。ニュージーランドには自由に行けるし住める。ニュージーランドのパスポートで世界中を旅することができる。また財政支援も受けられるといったものです。しかしニュージーランドは米国と違い、軍事的、戦略的な背景はありません。
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 それから太平洋の島々の中で無視できないのが米領の存在です。ハワイ、マリアナ諸島、グアム、米領サモア。あとあまり知られていない無人島ですがキングマン環礁、パルミラ環礁、ジョンストン環礁、ハワード島、ベーカー島、ジャビス島、ウェーク島、ミッドウェー環礁があります。この8つの米領無人島が太平洋にあります。あとでEEZの地図もお見せしますが、世界一のEEZ排他的経済水域)を誇るアメリカの50%のEEZがこれらの島々で形成されています。ちょっと計算したのですが、この中でも無人島が形成しているEEZは、50%半分以上です。  なぜこれらの太平洋の島々が米領になったのでしょうか?  1800年代の拡張主義時代、ハワイではリリウオカラニ女王に銃を向けてアメリカの領土とした。北マリアナは第2次世界大戦後に日本から獲得した島ですね。米領サモアは、南太平洋の中で一番の良港があるといわれていたところで、ドイツとの協議で、米領となりました。  それから小さな無人島ですが、なぜ米国領になったかというと、「グアノ島法」というおもしろい法律がアメリカにあります。グアノというのは燐鉱石、鳥のうんちです。このグアノがある島々をアメリカの市民が見つけて、その島がすでにどこかの国に支配されていなければ、それをアメリカ領と宣言することができる、それにあたっては大統領が軍隊を派遣して守ることができると、以上おおざっぱな説明ですがこんな法律がアメリカにまだあります。この法律によって、アメリカは現在までこれらの島々の領有権を主張しているわけです。ただ今となっては海洋安全保障の観点からこれらの島々が米国に属していることは、まあ良いのかなと思います。  グアノ即ち燐鉱石を取り尽くした後、全部ではありませんが核実験に利用され、その後は核兵器の廃棄場として利用されています。島というのは経済的な活動をしていないと領有権を認められませんので、2008年だったと思いますがブッシュ大統領が駆け込み法案で世界最大の海洋国定公園を作ったのです。これらの島々は世界で最大の海洋公園の一つになりました。そういった米国の覇権の名残が太平洋にはあります。  それからフランスです。フランスも非常に大きなEEZを太平洋に持っています。仏領ポリネシアタヒチがあるところです。それからニューカレドニア、ワリスフツナ。ヨーロッパにあるフランス自体のEEZは大変小さいのですが、フランスのEEZの90%以上が海外領によって形成されているものだそうです。このEEZを調べますと、太平洋にある3つの島々はだいたいフランスの全体の65%のEEZを占めています。仏領ポリネシアはご存じだと思うのですが、ムルロア環礁がありまして、1996年、最近まで核実験が行われていました。  それからイギリスは90年代になって太平洋から関心が引いてしまったのですが、まだピトケアン島が英領で残っています。これは年齢が上の方はご存じかもしれませんが、「バウンティ号の反乱」というマーロン・ブランドが主演をした映画があります。タヒチにきたイギリス船で船員たちが反乱を起こして、タヒチの女性を連れて逃げて暮らしている島です。これは実際にあった話ですが、そういう歴史的背景からイギリスがまだビトケアンを領有しています。それから、モアイで有名なイースター島が今チリ領になっています。