やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「移動する太平洋の島の人々」(5)

(2012年1月琉球大学国際沖縄研究所のご招待で講演させていただいた内容を同研究所の許可を得て掲載させていただきます。)

「移動する太平洋の島の人々」(5)

琉球大学国際沖縄研究所:IIOS レクチャーシリーズ2011第6回

2012年1月10日(火) 18:00~19:30 (於てんぶす那覇4Fテンブスホール)

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 このように太平洋の島々が旧宗主国、また大国との関係を重視している背景には資源の限られた島々が完全に独立して自立してやっていくのは難しいといったことが考えられると思います。 

 これは2001年のニュージーランド国勢調査です(スライド18)。どちらかがニュージーランドに住んでいる人口になります。皆さんどちらがニュージーランド在住で、どちらがそれぞれの島の在住だと思われますでしょうか?

 こちらの左側のほうが2001年の時点で、ニュージーランドに住んでいる人口です。トンガは約40%、サモアは約60%、そしてクック諸島にいたっては島に住んでいる数の3倍がニュージーランドに住んでいます。そしてトケラウは4倍の人口、ニウエは12倍ですね。トケラウはニュージーランド領ですが、クック、ニウエは先ほどご説明しました自由連合協定を締結していますので、人の移動は自由です。

 今回数字は出せなかったのですが、ミクロネシア諸国も同様に人口の半分以上が米国の本土に住んでいると思います。他国に人口の移動をする枠がないメラネシア地域なんですが、これはパプアニューギニアソロモン諸島、フィジー、バヌアツです。実はこの人口移動ができないメラネシア地域で2000年あたりからクーデター等社会情勢が不安定な状態が続いています。つまり人口の移動の自由を確保できている島々は平和で、比較的政治が安定している。他方、人口が移動に自由度が低い国はそれが直接の原因がどうかは分かりませんが、政情が不安である。

 この問題にいち早く気付いて対策を立てているのが、実はニュージーランドです。ニュージーランドは海面上昇で島が沈むと言われているツバルからも毎年数百名の移民を受け入れる枠を設けています。環境難民という枠組みではなく、人口問題、経済福祉の視点から太平洋国家としての責任、大きな概念の国益として、ニュージーランドはツバルの特別な移民枠組みを設けています。

 ニュージーランドポリネシアで先住民マオリの方たちがいます。そういった太平洋の文化背景もあって、サモア、トンガなどポリネシアの国々からも毎年何百人という枠の移民を受け入れています。それからニュージーランドは移民枠だけでなく季節労働者の受け入れもいち早く進めています。毎年数カ月、ぶどう摘みとかグループで各島から受け入れをしています。それが、いま結構うまくいっているようで、当初オーストラリアはこういった受け入れに積極的ではなかったのですが、今年あたりから徐々に受け入れるようになってきました。