やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

高嶋博視著『武人の本懐』FROM THE SEA 東日本大震災における海上自衛隊の活動記録

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 東日本大震災で自衛隊が米軍と共に活躍しているのニュースで聞いていた。 元海上自衛隊の高嶋博視氏がその詳細を本にされた事をツイッターで知り、『武人の本懐』を手にした。 無法地帯と化してる太平洋の海に日本のシーパワーが出て行く事を期待しているし、特に米国から日本の貢献が期待されている。

 日本のシーパワー、断然的に海上自衛隊なのだろうが、戦後レジームは彼らの手足を縛り、実質的には2つの庁ー海上保安庁と水産庁がその役割を担っているのが現状だ。 現場経験のない海上自衛隊が、現場に、しかも未曾有の大震災でどのような活動をしたのか?また被災地、他の支援機関とどのような連携が取れたのか取れなかったのか、関心があった。

 同書では米軍との協力が非常にうまく行き、相互の信頼関係が今まで以上に確認された事が強調されている。  

 日米共同については、何ら不安はなかった。海上自衛隊は東西冷戦期から、もっといえば海上自衛隊創設の時から日米共同を視野に入れて建設され、長年にわたってその実をあげてきた。  数十年にわたる日米共同の実績が我々に自信を与えていた。かつては英文電報を日本語に翻訳したり、無線で英語が流れてくるとお互いに美しい譲り合いをしたものであるが今時そんな海上自衛官はいない。(同書 57−58頁から引用)

 他方、海上保安庁と協力があまりなかったようである。  

 私は海上保安庁第二管区保安本部長にコンタクトし ー中略ー 現在行っている活動と同時並行してできることがあれば協力したい。ー中略ー  当方の申し出をありがたく受け止めてくれたが、現在のところその必要はないとの回答であった。念のためにと携帯電話番号を教えてくれた。(同書 70頁)

 加えて、漁網の除去を行っていた海上自衛隊に、突然海上保安官が事情聴取を行った事が書かれている。  

 行き違いがあったのかもしれないが、我々は承知していなかった。  何の目的で、何の権限があって聴取したのか、今後どのような扱いをしようとしているのか説明を求めたが、海保からは何のリアクションもなかった。(同書 221頁)  

 政府内部の不協和音であり本来ならばここに書くべき事ではないであろう。またこのような書き方は、海保を一方的に非難する事になってしまう。著者は高嶋氏は、それを百も承知で敢えて書いたのではないか、と想像する。そこには将来、海保海自の協力、連携が重要である、とのメッセージがあるのではないか。  

 そして本来であれば自衛隊の最高の指揮監督権を有している内閣総理大臣が、また 自衛隊法第80条に則って内閣総理大臣が海保海自の共同を判断・命令をする範囲なのではないか? この本には本来ならば司令塔であるべき内閣の事に一切触れられていない。その事自体が当時の政権がどのような状況であったかを物語っているようにも読める。  

 最後にもう一カ所、被災支援活動とは関係のない、記述を取り上げたい。 ミクロネシアの海上保安事業が開始し、海洋安全保障研究会を立ち上げた際、立命館大学の佐藤洋一郎教授から教わった事がある。世界の海事は大きく商船と海軍の両大車輪で動いている、と。 海保と海自、商船と海自のわだかまりは、口頭で聞いたりしていたが、この本に書かれていた。  

 例年観音崎で実施される戦没船員の慰霊祭に参加した。 先の大戦において商船と船員に甚大な被害が出た事から、戦後,海上自衛隊と商船の間には深い溝ができていた。ー中略ー  司会者が冒頭に、海上自衛隊の長年にわたる本慰霊祭に対する支援・貢献について長々と説明した。(同書222頁)  

 日本の海上自衛隊が現場へ出て行く事のわだかまりは、その手足を縛った連合軍は既に忘却しており、逆に国内の方が強いような気がしている。しかし、それでは何のために我々は、日本国民は海上自衛隊を保持するのか。 戦争やこのような大震災はない方がよいが、現場を知らない海上自衛隊や、自分たちがどんな軍事力を持っているのか知らない事の方が恐ろし事ではないだろうか。  

 海上自衛隊の歌姫、三宅由佳莉さんを先頭に立て、(世界の紛争には一切無関係に見える)太平洋の島々にも(医療支援、被災訓練、音楽交流等々)どんどん出て行って欲しいと個人的には考えている。