やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

インターネットガバナンスと太平洋島嶼国

1988年、笹川平和財団主催の太平洋島嶼国会議開催の周辺で、フィジーのカミセセマラ大統領から、笹川会長に依頼があった。

「太平洋の島々のために衛星を打ち上げて欲しい。」

私の前任者は一応調べたようであるが、とても一民間財団が扱う内容ではない。当時衛星産業自由化されていなかったし。。

「規模が小さくなりませんでしょうか?」

「それでは UPNetをなんとかして欲しい。できれば島嶼国政府を結ぶ島ネットも。。」

私が財団に入った1991年4月。前任者はその数週間前に退職され、机の上に上記のコレポンとUSPNet申請案があった。

これが私とICTの出会いである。それから12年。

2003年1月、ITU主催のWSIS東京会議が開催された。

これ当初「WSISアジア会議」だったのを「WSISアジア太平洋会議」にしたのは笹川平和財団である。

当時ICTの事業をいっしょにやっていたオーストラリアのThe Foundation for Development Cooperation (FDC)から提案があった。WSISを東京でやるらしいが、いっしょにサイドイベントを企画しないか?当時国連大学ともいっしょに仕事をしていたので彼らも巻き込んで結構な島嶼国のメンンバーを集め開催する事ができた。

ITU等の国際機関が「アジア太平洋」と言ったとき、必ず太平洋の島々は抜け落ちるのである。

それで、微力ながらでも、少しでも島の存在感を示したかった。

結果、島嶼国に特別な配慮をすべきとの文言がこのWSIS東京会議の宣言文に盛り込まれた。当時のITU事務総長内海氏のコメントにも太平洋島嶼国が参加した事が高く評価されていた。

その内、WSISはインターネットガバナンスにアジェンダが移っていったようで、なんじゃらほい?と横目で観ていたのであるが、これが今や世銀やADBも巻き込んだICT開発につながり、小さな島々が次々と海底通信ケーブルで接続される状況を作り出している。

私はこの状況を数年前にフィジーで始めて気づかされた

知らず知らずのうちに恐ろしい事、新たな冷戦に加担してしまったらしい。

ここ数年の動きはきちんと追っていないが、インターネットの米国一局支配は終了し、新たなインターネットガバナンスが進んでいるようだ。これがサイバーセキュリティの話にもつながる。

この議論をオンライン上でよく見かけるが、なぜか、皆さんITUの内海善雄氏の件を忘れているのだ。

内海氏が、ITUが動かなくても、いつかはインターネットの米国支配は終了していたかもしれない。しかし、内海氏は良くも悪くもICTの世界史を変えた張本人であろう。

一度、知人の総務省審議官に訪ねた事がある。

「内海さんは、虎の尾を踏むどころか、寝ている虎の正面に行ってひっぱたいたのでないでしょうか?」

虎は勿論米国の事。

「本当はわからないようにやらなきゃいけなんだよね。」

内海氏、下記の記事を読むと確信犯だったようだ。

国際化されるインターネット・ガバナンス (2009-10)

http://yutsumi.web.fc2.com/message/hiroba/internetgovernance.htm