やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Let's colonize - 植民しよう

世界の注目を浴びる、キリバスのトン大統領がまた世界に訴えかけるメッセージを発信した。

海面上昇を促すCO2を大量に排出する世界の炭坑開発をモラトリアムにしよう、という案である。

 

"Kirbati's President Tong calls for global moratorium on coal mining"

http://www.rtcc.org/2015/08/13/kiribati-president-calls-for-moratorium-on-coal-mines/

 

エネルギーの事は全くわからないがちょっと検索したら下記のサイトを見つけた。

どうやらターゲットは中国のようだ。世界の約半分の石炭を消費している。

 

「2017年、石炭が世界で最も消費されるエネルギー源になる!?」

http://wired.jp/2013/01/11/coal_energy/

 

12月の気候変動パリ会議へ向けた動きである。

石炭エネルギーの代替エネルギーとして期待されるが天然ガスである。

パプアニューギニアの天然ガスの件で学んだが、この天然ガス、扱いが難しい。

日本が天然ガスの開発に力を入れている背景には中国の需要も想定して、ではなかろうか?

 

さて、キリバスの海面上昇の件である。

ニュージーランドのケンチ教授発表では島は沈まないどころか大きくなっているという。産経新聞の佐野慎輔記者が記事を書いている。

 

「海面上昇で国は沈んでいくか」

産気ニュース8月1日

http://www.sankei.com/column/news/150801/clm1508010006-n1.html

 

 

キリバス人は移民する必要がないのだろうか?

島が沈まなくても一度海水をかぶった島の土地は塩分を含み農業に適さなくなってしまう。

島が沈まなくても飲み水のレンズ層も海水の影響を受ける。

そして、島が沈まなくても人口は増え続けるのだ。

 

太平洋島嶼国は独立と共に旧宗主国と特別な政治的取り決めをし、大雑把に言えばポリネシアはニュージーランドに、ミクロネシアは米国に移民、就労、留学等の道が開けている。

現在これらの国々の人口の半分近くが海外に住んでいるのだ。

ところが、メラネシア3国(パプアニューギニア、バヌアツ、ソロモン諸島)とキリバスにはその取り決めがなく、人口増加は社会問題となっている。

 

ヒーゼル神父の太平洋島嶼国の経済開発に関するペーパーが東西センターから出されている。

Hezel, F, X. 2012. Pacific Island Nations How Viable Are Their Economies? Pacific Islands Policy 7, Honolulu: East-West Center.

 

そこに人口増加の話があって、増加率2%を超えているのが移民の可能性がないメラネシアの3国。移民の道があるミクロネシア、ポリネシアは増加率は1%以下になっている。

但し、キリバスは別。1.6%

しかも人口の半分が都市のタラワに集中してしまうのである。タラワに人口増加を受け入れる社会的、物理的キャパはない、というか既に超えているのだと想像する。バヌアツはそうである。

 

下記はヒーゼル神父の上記のレポートから。

 

そうすると何が起るのか?

先月、マーシャル諸島で200名のキリバスからの違法滞在・就労者が国外退去させられた。

あらゆる手段で海外に出て行く事になる。

佐野記者が取り上げた環境難民訴訟もその一つであろう。

 

トン大統領が気候変動に、海洋保護区に訴える気持ちはよくわかる。

が、現実的解決方法として、ミクロネシアやポリネシアのように権利として安定した移民の道を見つけていくのが王道ではなかろうか?

太平洋諸島の人々は元々coloniserなのである。数千年来、数千キロを行ったり来たり。

一つ例を示そう。

バウンティ号で有名なピトケアン島。同船の反乱者が上陸する以前に人が住んでいたが、ある時を境に絶滅した。「ある時」とは、ピトケアンの人々が交易、交流していた近くの島で内乱が起きた時だ。即ち、小島嶼での生存は外部との交流があって始めて維持できるのだ。

 

皮肉な事に、「西洋」からの脱植民地化は、小島嶼国の植民活動を妨げてしまった。

主権と引き換えに、パスポートやビザ、そして高い渡航代が必要となったのだ。