やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

民族自決とレーニン

『日本・1945年の視点』(三輪公忠著、東京大学出版会、2014年)は貴重な本である。

新渡戸と矢内原の論稿が掲載されているので手元にあるのだが、他の論稿も勉強になる。

1986年に出版され、東京大学出版会が古典としての評価の高い著作を新装復刊した一冊でもある。

小国の誕生につながる「民族の自決」self-determinationの起源はベルサイユ会議でのウィルソンの発想と理解していたが、レーニンだったのだ。下記『日本・1945年の視点』から要約する。

第一次世界大戦中に起ったロシア革命の進行過程で、旧ロシア帝国の多大な領土をドイツに譲渡す犠牲を強いられた。その際、レーニンが示した「民族自決」の原則はドイツ帝国が奪った領土を保有し続ける根拠を奪うものであった。

ロシアがドイツに奪われた領土はフィンランドエストニアラトビアリトアニアポーランドウクライナなどの異民族の土地だ。

レーニンの民族自決論は民族主義的な要求が高まる事によって共産主義革命の起爆剤となる階級意識が醸成される、という理論であった。

結局ドイツが敗戦する事によって、レーニンが残した民族の自決はウィルソンの戦後処理の一つとして取り上げられ、今日までに続く国際秩序の主要原則であり、戦勝国への、極めて扱いづらい置き土産となった。(『日本・1945年の視点』2014年、165-166頁)

この背景を知ると、小島嶼国の存在もパナマ文書の本当の意味もわかって来る。

ところで、以前は「ウィルソン」と「民族自決」というキーワードで資料を検索していたのだが、「レーニン」と「民族自決」で検索すると、学術論文が結構出て来るのだ。

下記の鈴木是生氏の論文を手始めに読む予定である。次のウェッブからアクセできる。

https://nufs-nuas.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&pn=1&count=20&order=16&lang=japanese&creator=%E9%88%B4%E6%9C%A8+%E6%98%AF%E7%94%9F&page_id=13&block_id=17

帝国の解体と民族自決論 : バウアー、ウィルソン、レーニン(一)

鈴木是生

名古屋外国語大学国語学部紀要/Journal of School of Foreign Languages, Nagoya University of Foreign Studies,(30),157-178 (2006-02)

帝国の解体と民族自決論 : バウアー、ウィルソン、レーニン(二)

鈴木 是生

名古屋外国語大学国語学部紀要/Journal of School of Foreign Languages, Nagoya University of Foreign Studies,(32),375-400 (2007-02)

帝国の解体と民族自決論 : バウアー、ウィルソン、レーニン(三)

鈴木 是生

名古屋外国語大学国語学部紀要/Journal of School of Foreign Languages, Nagoya University of Foreign Studies,(33),127-147 (2007-08)