やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』

(駄場様、お名前間違えて申し訳ありませんでした)

後藤新平の植民政策を論じた資料はないでしょうか?と京大のN教授に思いきって尋ねたところ、駄場裕司著『後藤新平をめぐる権力構造の研究』(南窓社、2007年)を教えていただいた。

著者の駄場裕司氏は、あとがきを読むと新聞記者をされていたようで、この本は広島大学で書かれた博論である。

目次を見ると未知の世界である。

しっかり読んでいない。ざーっと、関心が持てそうな、背景が少しでもわかりそうな箇所だけ読んだ。

後藤新平玄洋社は繋がっていて、玄洋社ソ連との関係を強化しようとし、さらに日韓併合も推進していた。後藤新平日韓併合ソ連との関係強化の背景に玄洋社あり。

後藤新平全集(全四集、1937-38)の「鶴見本」はここを隠しているので、玄洋社と後藤の動きが見えない、という事である。

なぜ隠したのか?

著者の推測は後藤周辺の言論人による意図的なものであるとのこと。

E・H・ノーマンが「福岡こそは日本の国家主義帝国主義のうちでも最も気違いじみた一派の精神的発祥地として重要である」と1945年1月にIPRで糾弾。そして「鶴見本」を編集した後藤と姻戚関係の平野義太郎は戦後ノーマンの権威を最も積極的に利用していた、というのだ。

読んでいて色々疑問に思うところ、例えば新渡戸と後藤の関係など濃いはずだ。新渡戸を国際連盟次長に押したのは牧野伸顕だが、パリ講和会議に「茶番劇を観に行こう」と新渡戸を誘ったのは後藤なのである。「鶴見本」を神話と一様に片付けていいのだろうか?

後藤新平新渡戸稲造、そして矢内原忠雄を日本の植民政策の視点から、今のところ「趣味」の範囲でしか勉強していないので、あまり批判的な事は書かないでおく。

とにかく玄洋社を理解しないと近現代史は、日韓併合や日本の植民政策は語れない、ということか?

余計な事だが「007は二度死ぬ」に福岡の黒竜会が出て来るのもIPRのノーマンの仕業だったわけだ。