やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

開発イデオロギーと自決権・脱植民

指導教官の坂元教授からは博士の3年で扱える問題ではないので止めておけとアドバイスいただいている件なのだが、人口数万、数十万で独立、主権国家となった太平洋島嶼国を支える根拠である国際法の「自決権」。どうも気になってダメ元で勉強してみようと夏休みから資料と格闘している。

太平洋島嶼国の多くが、というより全てがと言っても過言でないであろう、自らの能力では管理も開発できない海洋を管轄する事の背景。ある意味この広大な海洋EEZの管轄権こそが70年代に集中した独立を後押し太平洋島嶼国が誕生したのである。

今まで読んできたカッセーゼ、カー、マクミラン等に続いて日本の自決権研究の泰斗松井芳朗博士の論文をいくつか手に取った。

その内容は以前も書いたが、「自決権」に、特に小国のそれに懐疑的なカッセーゼ、カー、マクミランとは180度違った論調、すなわち「自決権」に疑問を持つ事自体否定する松井博士の論調に驚いた。

戦後、自決権や人権が議論される中で「天然の富と資源に対する永久的主権」が国連で議論され、1966年に松井先生が出された同タイトルの論文も一読させていただいた。やはり同じ論調であった。即ち途上国の独立と共に天然資源に対する主権的権利を主張する立場だ。

この松井論文の注に「諸国家間の友好関係及び協力に関する国際法の諸原則についての特別委員会」のことが書かれてあった。国際法の観点から「天然の富と資源」が議論されているが、松井博士がこの論文を出した1966年にはまだ関連資料は入手不可能であった、とういう事である。

そこで、検索したところ下記の文献を見つけ、それぞれ一読した。

どれもが、松井論文の論調と正反対なのである。自決権、脱植民がソ連の、共産主義プロパガンダであり、西洋社会の秩序、国際法の規範を攪拌するために無理やり推し進めようとしている、など非常にシャープに批判、主張しているのだ。

この違いはなんなのであろうか?

Haight, George Winthrop. "United Nations: Principles of International Law Concerning Friendly Relations and Co-operation Among States (1966)"  The International Lawyer Vol. 1, No. 1, october 1966, pp. 96-133

Houben, Piet-Hein. "Principles of International Law Concerning Friendly Relations and Co-Operation Among States". American Journal of International LawVolume 61 Issue 3. July 1967 , pp. 703-736.

McWhinney, Edward. "The “New” Countries and the “New” International Law: The United Nations’ Special Conference on Friendly Relations and Co-operation among States". American Journal of International Law. Volume 60, Issue 1 January 1966 , pp. 1-33

McWhinney, Edward. "Friendly Relations and Co-Operation Among States: Debate at the Twentieth General Assembly, United Nations". American Journal of International Law. Volume 60 Issue 2. April 1966 , pp. 356-361.

Frederic L. Kirgis, Jr. "The Degrees of Self-Determination in the United Nations Era". The American Journal of International Law. Vol. 88, No. 2 (Apr., 1994), pp. 304-310.

(自決権の一般的議論。そのdegree, 測定する変数。今ひとつわからないペーパーだった)

この背景の議論を大まかに掴んだ上で、坂元教授から以前読むようにご指導いただいた山本草二教授の海洋法関連の資料をこれから再読する。「開発イデオロギー」という言葉が何度か出てくるのだが、上記のことだと想像する。