やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

バヌアツ — ミュージカル南太平洋の舞台から中国軍事基地へ(1)

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バヌアツは「貧乏長屋。とるものも何もない」のか?

 

中国政府がバヌアツに軍事基地建設の交渉を開始したとの4月9日シドニーモーニングエラルドの記事は世界を駆け巡り、日本語でも紹介された。そしてすぐその後にバヌアツ、中国政府が軍事基地建設の交渉を否定するコメントを発表。

軍事基地建設の交渉は否定されたが筆者はこのニュースがフェイクであるものの、全くのフェイクではない事を指摘し、その後の議論を見守ってきた。

 

China eyes Vanuatu military base in plan with global ramifications

By David Wroe9 April 2018

https://www.smh.com.au/politics/federal/china-eyes-vanuatu-military-base-in-plan-with-global-ramifications-20180409-p4z8j9.html

 

 

バヌアツ  — 一体どれだけの日本人がこの国を知っているだろうか?

数年前、百田尚樹氏がバヌアツとナウル、ツバルを指して「貧乏長屋。とるものも何もない」とコメントし、批判を浴びたことでその国名だけ有名になったのではないか。

多くの批判は百田氏が小島嶼国を「貧乏長屋」と表現した事にあったようだが、現地をよく知る筆者は別の角度から批判した。それは「貧乏長屋」、即ち途上国ではあるが、バヌアツの歴史を知れば同国の宗主国英仏政府だけでなく米国のビリオネラまでがバヌアツの島々を奪い合い、独立前夜には犠牲者まで出した同国は「とるものも何もない」という指摘は間違っている、と百田氏にツイートさせていただいた記憶がる。

今や、英仏米だけでなく中国が10年以上に亘ってこの国に着々と触手を伸ばしているのは、太平洋島嶼国を知る人々にとっては常識である。今回のニュースで、百田氏の「貧乏長屋。とるものも何もない」という指摘が全く間違っている事が日本人に広く知られたのではないだろうか?

 

1980年に独立したバヌアツは約百の島々からなり、90以上の言語がある。人口は急増し、現在27万人程度だ。バヌアは「土地」、ツは「我々の」の意味。英仏の共同統治という世界でも稀な植民統治が100年近く続き、独立に際しては英国政府が太平洋島嶼で初めてのタックスヘイブンを導入した。日本人として関係深いのは第二次世界大戦では今回のニュースに取り上げられたエスピリト・サント島。連合軍の後方基地として開発され、ジョン・F・ケネディ、ミュージカルとなった「南太平洋」を執筆したジェームズ・ミッチェナーも従軍していた島である。