やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

第三期海洋基本計画と「霞ヶ関ルール」(追記あり)

昨日、同志社大学の坂元茂樹教授の国際法の授業で「霞ヶ関ルール」と言う日本政府の悪い体質を形容する言葉が出てきた。

国際会議などの日本政府を代表する場でさえも、省庁間の権益を乗り越えられず、日本に対する誤解と不審を世界にばらまく行為である。

 

これでピンときた。先週招待いただいた日仏海洋対話で、内閣府総合海洋政策推進事務局河津邦彦参与が第三期海洋基本計画を紹介されたのだが、引っかかっていたのだ。

 

第三期海洋基本計画、「海洋安全保障」が主要テーマである。島サミットと同じ。

誰かが防衛省と「海洋安全保障」との関連を質問したのだと思う。

河津邦彦参与、それは防衛省の担当で第三期海洋基本計画は関与しない、もしくは私は知らない、という風に回答した。さらに第三期海洋基本計画のセキュリティと防衛省のセキュリティは違う、とも。

ここは河津邦彦参与の回答を正確に覚えていないのだが、コーヒーブレイクで他の参加者とあの回答変だよね、と確認したので私の勘違いではないと思う。

 

第三期海洋基本計画、「海洋安全保障」がメインで防衛省が、自衛隊が入っていないはずない、と思いキーワード検索したのが下記のブログである。

 

海洋基本計画と安全保障キーワード数

 国土交通省で191回。海上保安庁は20回。

農林水産省で75回。水産庁は4回。

外務省の55回

防衛省34回、自衛隊8回となっている。

 

国土省が圧倒的に多いが、防衛省も34回、自衛隊8回と出てきている。これだけ出てきて第三期海洋基本計画の安全保障は防衛省のそれと違う、と言って良いのだろうか??

 

河津邦彦氏、1967年 (昭和42年) 篠山市生まれ。 篠山鳳鳴高校、 東京大経済学部卒。 ドイツ留学、 ベルリン総領事館などを経て、 本省アジア局などに勤務。 2004年から在ジュネーブ日本政府代表部でWTO担当。(丹波新聞、2009年12月24日より)

経済が専門なのか。安全保障に関する理解は大丈夫か?

それより何より、省庁間の協力に力を置いているはずの今回の第三期海洋基本計画。肝心の推進事務局が省庁間の権益を分ける「霞ヶ関ルール」を推進するのか?

役人を責めてもしょうがない。国会議員に積極的に意見を述べていきたい。

 

追記:「防衛省が何回出てきたとしても防衛省に海洋警備を行う法的根拠がないですから、なにもできないのでただのお飾りでしかない」とのコメントいただいたので、実際にどのように明記されているか、防衛省が出てくる項目を拾ってみた。下記にコピーする。

防衛省・自衛隊では、益々厳しくなる我が国周辺海空域の安全保障環境に対応して、 防衛体制の強化を図っている。また、海上保安庁では、直面する多岐にわたる課題に 適切に対応するための海上保安体制の強化を進めている。加えて、平和安全法制を整 備し、各種事態に際し切れ目なく対応する取組を行っている。

 

○防衛省・自衛隊については、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画に基づき防衛力整備を着実に実施していく。特に、南西諸島を含む島嶼部への部隊配備等により、島嶼部における防衛態勢・体制の充実・強化を図る。(防衛省)

 

○不審船・工作船対応能力を維持・向上するため、情報収集分析体制の強化や不審船 対応訓練を継続的に実施するとともに、不測の事態へのシームレスな対応が可能と なるよう防衛省・自衛隊と海上保安庁の連携を一層強化する。(国土交通省、防衛省)

 

○同盟国である米国に対しては、平素における各種交流や情報共有、演習等を通じ、幅広い海洋の安全保障の分野における日米間の更なる連携強化に努め、長期的かつ 安定的な米軍のプレゼンスを確保するとともに、友好国との連携を強化していく。 (外務省、防衛省)

 

○海洋監視体制の充実を図るため、衛星による情報収集の取組や省人化・無人化を考 慮した装備品等の研究や導入を推進していく。(内閣官房、国土交通省、防衛省)

 

○主として防衛省・自衛隊、海上保安庁及び内閣官房(内閣情報調査室)等が保有す る艦艇、巡視船艇、測量船、航空機、情報収集衛星等や沿岸部設置のレーダー等の 効率的な運用と着実な増強に加え、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA26) の先進光学衛星(ALOS-327)、先進レーダー衛星(ALOS-4)、超低高度衛星技術試験 機(SLATS28)等の各種衛星及び民間等の小型衛星(光学衛星・SAR29衛星)等の活用 も視野に入れ、また、同盟国や友好国等と連携し、我が国領海等における海洋監視 情報収集体制を強化していく。(内閣官房、内閣府、外務省、財務省、文部科学省、 国土交通省、防衛省)

 

○海洋監視情報共有体制に関しては、防衛省・自衛隊と海上保安庁との間の情報共有 システムの整備を進め、両者間の情報共有体制を充実させていく。(国土交通省、防衛省)

 

○シーレーン沿岸国に対する能力構築支援や、国際機関への要員派遣等の取組のほか、 ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動等の国際協力活動への参加、その他の 平素の交流を通じてシーレーン沿岸国等との信頼関係や協力関係を構築するとと もに、海上法執行能力向上支援、様々な機会を捉えた海上自衛隊の艦艇による寄港 や巡視船の派遣、共同訓練等を全省庁横断的に連携して進めていく。(外務省、国土 交通省、防衛省)

 

○国際社会と連携し、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処行動を引き続き実施する。 また、現在、我が国の海賊対処行動部隊が拠点を置くジブチは、西インド洋及び紅 海を臨む要衝であることに鑑み、これまでの活用実績も踏まえつつ、同拠点を一層 活用するための方策を検討していく。連合海上部隊(CMF33)と連携した情報収集や、 ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ(CGPCS34)、第 151 連合任務部隊(CTF15135) 等の国際的な協力枠組を通じて、関係国との連携の強化を図る。さらに、ソマリア 及びソマリア周辺国の海上保安機関の能力向上及び海賊訴追・取締能力向上のため、 国際機関を通じた支援及び二国間での支援を引き続き実施する。(外務省、国土交 通省、防衛省)

 

○海賊対処法の適切な執行を実効的に行うとともに、「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」(平成 25 年法律第 75 号)に基づく民間武装警 備員による所要の乗船警備を推進する。また、諸外国の海上法執行機関等との連携・ 協力の強化やシーレーン沿岸国の海上法執行機関に対する能力構築支援等に取り 組む。(外務省、国土交通省、防衛省)

 

○我が国にとって、重要なシーレーンにおける脅威・リスクの存在を踏まえ、シーレーンを航行する我が国関係船舶の安全確保のあり方について、海上交通の要素も含 め、平素から関係省庁間で検討していく。(外務省、国土交通省、防衛省)

 

○我が国が単独でシーレーンの情報を網羅的に収集することは極めて困難であるこ とから、我が国自身の努力に加え、同盟国、友好国等との協力体制を構築し、各国 との連携やシーレーン沿岸国の海洋監視情報収集に係る能力向上に資する協力を 推進する。(内閣府、外務省、国土交通省、防衛省)

 

○優先度を付けつつ、二国間、多国間の取組への関与を積極的に進めるために、我が 国としても各国への海洋監視情報提供のあり方等の検討を進めるとともに、保全措 置を含めた海洋監視情報提供に係る適切な体制を構築していく。(内閣府、外務省、 国土交通省、防衛省)

 

○同盟国・友好国・国際機関とも連携して、シーレーン沿岸国に対する能力構築支援 等、装備・技術協力を含め、海洋における規律強化の取組を推進していく。(外務 省、国土交通省、防衛省)

 

○同盟国・友好国と連携しつつ、能力構築支援、共同訓練・演習、防衛装備・技術協 力を始めとしたビエンチャン・ビジョン(日 ASEAN 防衛協力の指針)に沿った ASEAN 全体の能力向上に資する協力を推進していく。(防衛省)

 

○シーレーン沿岸国の能力向上のための支援を行うに当たっては、その具体化に向け て、対象となる沿岸国の能力及び当該国のニーズを適切に調査・評価し、関係国・ 機関が強化すべき能力分野を明らかにした上で支援を行う等、政府全体として、よ り戦略的・効率的な支援を追求していく。そのため、関係省庁が行っている支援の 現状を適切に共有できる体制を構築する。(外務省、国土交通省、防衛省)

 

○上記関連支援の具体的な実施に際しては、同盟国である米国や、友好国、関係諸国 との実務レベルでの連携強化の上、支援の調整を行い、不必要な重複を避け、効果 的かつ効率的な支援を継続的に追求する。(外務省、国土交通省、防衛省)

 

○G7、東アジア首脳会議(EAS40)、ASEAN 地域フォーラム(ARF41)、拡大 ASEAN 国防 相会議(ADMM42プラス)といった国際的な枠組を活用した関係国・機関との連携に 引き続き積極的に取り組んでいく。(外務省、防衛省)

 

○法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「自由で開かれた海洋」の維持・発展 に向け、防衛当局間においては、二国間・多国間の様々なレベルの安全保障対話・ 防衛交流を活用して各国との海洋の安全保障に関する協力を強化し、海上保安機関 間においては、地域の枠組を超えた「世界海上保安機関長官級会合」等の多国間の 枠組を活用し、基本的な価値観の共有を推進していく。また、拡散に対する安全保 障構想(PSI43)を始めとする大量破壊兵器等の拡散防止に係る国際協力に積極的に 参画する。(警察庁、外務省、財務省、国土交通省、防衛省)

 

○主として防衛省・自衛隊、海上保安庁及び内閣官房(内閣情報調査室)等が保有する艦艇、巡視船艇、測量船、航空機、情報収集衛星等や沿岸部設置のレーダー等の 効率的な運用と着実な増強に加え、JAXA の ALOS-3、ALOS-4、SLATS 等の各種衛星 及び民間等の小型衛星(光学衛星・SAR 衛星)等の活用も視野に入れ、また、同盟 国、友好国等と連携し、情報収集体制強化を通じて、MDA 能力を強化する。(内閣 官房、内閣府、外務省、財務省、文部科学省、国土交通省、防衛省)

 

○海洋監視情報の集約・共有に当たっては、海洋監視情報の機密性に応じ、関係府省 間で機動的かつ迅速な情報共有が可能となる有機的な情報共有体制を構築していくとともに、漁業者からの情報提供を始め、民間機関との連携も強化する。(内閣府、外務省、農林水産省、国土交通省、防衛省)

 

○防衛省・自衛隊と海上保安庁との間の情報共有システムの整備を進め、二者間の情報共有体制を充実させる。また、公表されている情報や学術情報を含めた各種ソー スからの海洋関連情報を集約可能な「海洋状況表示システム 78」の構築に努める。 「海洋状況表示システム」の整備・運用に当たっては、関係機関等が運用する各種 海洋情報サービスとの連携を強化する。(内閣府、国土交通省、防衛省)

 

○諸外国、国際機関等が保有する海洋情報について、各種ルートを通じて情報収集を図る。(内閣官房、内閣府、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)

 

○我が国自身の努力に加え、MDA に関する同盟国、友好国等との協力体制を構築し、各国との連携やシーレーン沿岸国の海洋状況把握に係る能力向上に資する協力の 推進を通じ、MDA 体制を強化していく。(内閣府、外務省、国土交通省、防衛省)

 

○内閣府が中心となり関係省庁間で連携して、衛星画像等により国境離島の海岸線等の状況を継続的に把握することにより、国境離島の適切な保全・管理を図る。 (内閣府、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省、防衛省)

 

○有人国境離島法及び同法に基づく「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離 島地域に係る地域社会の維持に関する基本的な方針」(平成 29 年4月内閣総理大 臣決定)に則し、有人国境離島地域が有する領海保全等に関する活動拠点として の機能を維持するとともに、特定有人国境離島地域では 2027 年に向けて定常的 に転入者数が転出者数を上回る状態を実現すべく、保全及び地域社会維持の施策 を推進する。(内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)

 

○排他的経済水域等の有効な利用等に係る基盤情報を整備するため、海洋調査の推進 と海洋情報の一元化を進め、情報の戦略性等に配慮した上で海洋情報の公開に引き 続き取り組む。(内閣府、外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通 省、環境省、防衛省)

 

○海洋に関する国際枠組に積極的に参加し、国際社会の連携・協力の下で行われる活 動等において主導的役割を担うよう努める。特に、経済的側面を含む我が国の安全 の確保の基盤である長大な海上航路における航行の自由及び安全を確保するため、 EAS・ARF等様々な場を積極的に活用し、関係各国と海洋の安全に関する協力関係を 強化するとともに、ASEAN地域訓練センターにおけるVTS100要員の育成支援等の協力 の具体化を進める。(外務省、国土交通省、防衛省)