やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

読書メモ『日本の刺青と英国王室』小山騰著

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 英国王室関連書籍2冊目は『日本の刺青と英国王室』小山騰著。著者の小山騰氏は2015年までケンブリッジ大学図書館日本部長。他にも面白そうな本をたくさん書いていらっしゃいます。

『 破天荒明治留学生列伝』(講談社 1999)

『国際結婚第一号―明治人たちの雑婚事始』(講談社 1995)

『ケンブリッジ大学図書館と近代日本研究の歩み: 国学から日本学へ』(勉誠出版 2017)

 まだケンブリッジにいらっしゃるのでしょうか?ケンブリッジ、この冬学会で訪ねる予定。

 さて、英国王室メンバーが日本で刺青を入れた事があまり知られていない、と言う事をFBで知りました。同書のリストの一部だけ写メでご紹介。ジョージ5世、ニコライ2世などなど。

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 小山騰氏の史料研究がすごい!小山氏がいなれば埋もれてしまう史実だったでしょう。

 今回ざっと読んで面白かったのが、明治時代外国人向けに売春と刺青がセットで提供されていたこと。女性の刺青師がいたそうです。

 それからウィンストン・チャーチルのお母さんも刺青をしていた事。そして彼女の素行。これはチャーチルの性格形成に大きく影響しているでしょう。

 ジョージ5世などは日本政府が刺青禁止なので止めるよう言っても「海に沈む覚悟なので、その時刺青があれば自分の体である事がわかるから」と苦し紛れの説得か、本当にその覚悟だったのか、実行します。当時のやり取りを想像するだけで興味深い。

 小山氏は、ジョージ5世が日本を訪ね刺青を入れた40年後、息子のエドワード8世(王冠をかけた恋の王様)が来日し刺青しようとした時は日本政府は諦めさせる事ができた、即ち日英関係が変わったのではと分析しています。

 最後の章で明治維新の日本が野蛮として禁止した刺青をジョージ5世始め日本を嫌った欧米の指導者達が彫っていた事を議論しています。これは反日がどこから来ているのか知る重要な視点、のようにも思います。

終 章 「文明」 と 「野蛮」 のパラドクス
日英関係の変化と刺青の拒否 / 彫千代と藤田嗣治 ――西洋への移植に彫宇之以上に貢献 / 大英帝国と日本の刺青 / ヤルタ会談の3首脳 (ルーズベルト・チャーチル・スターリン) の刺青

 ところで「刺青」はインド太平洋を股にかけた海洋民族オーストロネシア語族の文化でもあるのです。英語のTatooはポリネシア語です。