やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ダブ・ローネン『自決権とは何か』ナショナリズムからエスニック紛争へ(2)

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日本語訳のための序文でない方の序文は「アメリカ独立宣言」の冒頭の一節が引用されている。今回初めて読みました。

 

「われわれは、以下の事実を自明のことと考えている。つまりすべての人は生まれながらにして平等であり、すべての人は神より侵されざるべき権利を与えられている、その権利には、生命、自由、そして幸福の追求が含まれている。その権利を保障するものとして、政府が国民のあいだに打ち立てられ、統治されるものの同意がその正当な力の根源となる。そしていかなる政府といえどもその目的に反するときには、その政府を変更したり、廃したりして、新しい政府を打ちたてる国民としての権利をもつ。」

この後、国王は、国王は、と続き国王がどれだけ酷いことをしてきたかが書かれている。これを知らずに英米関係は語れないのだろう。初めて知った。もう少し早くアダム・スミスが国富論を書いていれば!

ローネンは自決権はフランス革命以来、5つに分類できるという。これは私が自決権をまとめようとした枠組みと似ている。

1.まずは19世紀のドイツ・イタリアにおけるナショナリズム。(1848年革命か)

2.マルクス主義の階級闘争

(1、2の動きは太平洋島嶼にとっては植民地拡大の災難となった)

3.ウィルソンの主張(ここで委任統治という法源が発生し、小島嶼国誕生の起源になる)

4.反植民地主義(ここに日本の東亜の解放が関係してくるし、冷戦下の太平洋島嶼での核実験も背景にある。)

5.今日の民族自決の追求(私はここを海洋法条約と絡めて書く予定)

チャゴスやニューカレドニアは5つ目の民族自決に入るであろうか? 3、4も関係してくるであろう。

ローネンはこの本で自分の考えを明確に伝えたいために通常の学術上のルールから外れる場合があることを書いている。すなわち先行研究の詳細や、事例の詳細な記述は避けている、という。

そして断りとして、human beingを人間的なもの、という一般的理解でなく、他の生物とは違う程度の意味。そしてself-determination は「暗黒の力」に対する「光明の力」ではなく客観的に見ている、即ち自決を鼓舞するものではない、と。

さらにローネンは、現在民主主義、多文化主義、寡頭政治などがうまく機能していると考えられて変化を望まない傾向があるが、現在の国家がそのまま存続するとあまり考えられないと認められる、という意見を示している。

ローネンはアメリカは多元主義を維持しているがそれは多くの民族集団からなっているからではなく、多くのアメリカ人は自分たちが地球上で一番自由であると認識し、望むものはなんでも手に入ると認識しているからである。この認識があるため米国は「分解力」(民族の分離のことか?)から免れるとローネンは分析する。

ローネンが自決権の研究に長年取り組んだのは個人的な経験があったからだと書いている。それは若い時の東ヨーロッパでの生活、ユダヤ人ゲットーでの生活とそこからの脱出、キブツとイスラエル空軍での経験、アフリカ人の信仰の研究。よってこの自決権の研究は学問的経験といよりは人生の経験から得られたものである。