やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

カール・シュミット『現代帝国主義論』(3) 国際連盟とヨーロッパ(1928)

線引いた箇所の抜き書きだけ。

5 国際連盟は総会、理事会の機能、権限、権能が不明確。全世界の平和に関する問題に対処する現実的可能性も、義務の公認されていない。連盟は一切をなしうるが何もしなくても良い。

6 主たる功績は国際理解の雰囲気作り、いつでも交渉ができる、という雰囲気作り。

7 現代の歴史的特質は国家及び国家体系の再構成。ドイツは相抗争する諸勢力、諸潮流の接点にあり、闘争の舞台たる運命を有している。

8 連盟とヨーロッパは区別が必要。第一にヨーロッパと連盟の関係に顕著な意見の対立がある。汎ヨーロッパは連盟がヨーロッパの機関であるという。連盟はヨーロッパの問題に専念しヨーロッパ以外の加盟国は連盟への関心を失っている。1926年にドイツが連盟理事国になった時、ブラジルは連盟を脱退。1926年秋の危機を連盟のヨーロッパ化の危機と。

9 加盟国の大半はヨーロッパで3分の一が米州の国であるが、米国は参加していない。

10 中国は国内に実行的政府がないにもかかわらず加盟国である。(知らなかった!)南アフリカ。オーストラリアなどもモンロー主義を確立している。すなわち連盟が関与する余地がない。

10 国際連盟とヨーロッパの関係とは連盟とアメリカ州の関係の問題である。

11 米国はヴェルサイユ条約調印を拒否し1921年8月25日にドイツと単独講和を締結。米国は断固欠席しているように見せて、ヨーロッパの諸問題に間接に列席している。え今日は無視できないほど大きい。

11 米国はアメリカ州に干渉している。干渉条約。1903年5月の米キューバ条約。1903年11月18日の米パナマ条約。アメリカ州の「主権国家」は実際は経済的に米国に依存している。

12−13 連盟規約21条で連盟はモンロー原則に服した。連盟はアメリカ州諸国に対する重要な影響力行使を一切放棄した。しかしい、米国の息のかかった米州は連盟に出席しており、米国が欠席していると言えようか?

14 米国がドイツの賠償問題に参与しつつも、形式的には徹底的な不関与の姿勢を貫いた。それでも賠償問題を扱うドーズ案実施の決定的瞬間には常に「一米国人」が登場する。そしてドーズ案の議決には「一米国人」が投票権を持って審議に参加することになっている。

15 ヴェルサイユ条約第8編第2付属書16aに従い、ロンドン協定第4付属書第一条正文はドイツの義務不履行申し立ての認定に関する仲裁委員会の委員長は常に「一米国人」なのである。(ここは複雑な条約の関係が書いてあるが省略)

17 この部分は衝撃的だ。連盟事務局次長だった新渡戸もかたっていない、と思う。ヨーロッパ基本問題の仲裁者は連盟ではなく米国である。敗戦国が正義と衡平望めるのは連盟ではなく米国である。連盟は公平な機関ではなくヨーロッパの勝者と敗者の問題を解決しない、すなわちヨーロッパの本質的に重要な解決をしない、ヨーロッパの勝者と敗者という危険な区分の政治的毒素を除去できない。それをするのは米国である、ということ。新渡戸はこのシュミット問題意識を認識していたであろうか?新渡戸がジュネーブにいる1924年に米国は人種差別法案、排日法案を可決する。新渡戸は2度と米国の地を踏まないと誓ったのだ。しかしそれではヨーロッパの問題を、シュミットが指摘するように解決はできなかったのではないか?

17 連盟は普遍的であろうとする。しかし普遍的という言葉は多義的である。こういうシュミットの言葉の定義は私は好きです。

18 連盟は勝者の国家群の政治的道具、ヴェルサイユ的現状の組織、戦利品の正当化。連盟は外交辞令を超え、勝者と敗者の区別を除去し、敗者が正当に処遇されていると感じるようにしなければならない。ここは現在の国際連合にも通じる議論だ。戦後敗戦国日本は徹底的に悪者にされてこなかったか?

18−19 連盟は空間的にも実質的にも普遍性を持っていない。ヴェルサイユ条約、サン・ジェルマン条約、トリアノン条約、ヌイー条約と密着しすぎている。この4条約の敗戦国は中部ヨーロッパの国である。

19 1914−1918までの戦争は世界戦争ではない。米国が参戦してドイツ帝国は世界相手に数年間持ちこたえたのである。

20 1818年の露澳普の3カ国にフランスを加えた神聖同盟は1919年の連盟より高度の現実性があった。1823年の米国のモンロー主義はこのヨーロッパ神聖同盟を敵視し、アメリカ州を対置させた。

21 ヨーロッパ政治的統一はドイツの統一よりも奇跡に近い。

21 フランス人の考えでは連盟は1919年の現状を安定化し、連合国の勝利の成果を正当性と共に聖化すること。

22 連盟はヨーロッパ的組織ではない。賠償問題と連合国間債務問題を解決する能力も意思も連盟にはない。

23 ヨーロッパの真の仲裁者は連盟ではない。知的廉直に価値があるならば幻想の破壊は偉大な収穫である。

 

最後の言葉は現実主義者(だと思うのですが)シュミットらしいと思った。連盟への幻想はそのまま連合への幻想として、今こそ敗戦国として不当に扱われてきた日本人は議論すべきでは。強い日本を米国は望んでいるのだから。