やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

矢内原忠雄の帝国主義研究(1)全集5巻

チャタムハウスからコモンウェルスとつながって帝国主義という言葉で躓いた。

矢内原全集に「帝国主義研究」があることを思い出して3本ほど小論を読んで、矢内原の植民政策を中心に読んできたが、帝国主義の論文も拾ってみる事とした。

まずは第5巻に収められている「国際経済論」。1955年に出版された弘文堂の経済学全集第8巻『国際経済論』の一部である。戦後東大に戻った矢内原の経済学部での講義の骨子と編集後記にある。

「国際経済論」は次の8章から構成され、各章が10頁前後にまとめられている。

1章 国際経済論への接近

2章 世界の成立

3章 帝国主義

4章 共栄圏論

5章 国際移民論

6章 国際貿易論

7章 国際投資論

8章 国際平和論

 

3章 帝国主義には第一節「帝国主義の概念規定」で改めてImperialismの語源などが書かれている。imperatorの支配する領土全体をimperiumと呼んだ。しかしImperialism という政策上の主義、政策が唱えられたのはフランスのナポレオン3世によるニューカレドニアなどの海外領土拡大の時からである。そしてそれはレーニンが指摘するように資本主義の帝国的膨脹の要求が激烈となり、領土分割は戦争を要求した。

同論文がルクセンブルグなどマルクス主義を多々引用し資本主義と植民地が議論されている(と思う)難しいくて理解できない。

続く4章 共栄圏論も帝国主義との関連で議論されていて面白い。共存共栄という概念を用いて、植民地や西洋諸国からの批判を避ける口実であったと矢内原は書く。しかしながら矢内原は共栄圏は帝国主義的な異民族支配ではなく各国民の独立尊重したものである、と。即ち英連邦に近い概念であろう。

第4章の最初に第一次世界大戦が植民地再分割のための帝国主義戦争であるとし、国際関係上3つの重要な結果を来らせたと指摘。それは

1)ドイツがすべての植民地を失い、フランス、イギリス、日本が得たこと。

2)国際連盟が創設され、民族自決と国際通称の自由原則が採択された

3)ソ連革命が成就したこと。

この3つ目のロシア革命は意外であった。この論文にはないが、第二インターナショナルのドイツ革命、ワイマル共和国とそこから生まれたナチの存在も重要なのかもしれない。