やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ベルツの日記 読書メモ(5)ベルツと伊藤博文

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1876年、日本政府との2年の契約で来日したベルツ博士は、26年契約を終えるが、皇室から契約の依頼があり、更に3年間滞在する。主に大正天皇の健康管理がベルツの業務だったようだ。

この「ベルツの日記」いつか読んでみたいと思っていたが、草津行きをきっかけに手にしてよかった。日記を読んでわかったのが日本でベルツが親しくしていたのが皇室と伊藤博文であった。

日記を読み進めると、国内国外の社会情勢の、かなり詳細な情報収集、分析が行われている。日本に滞在する外交使節からの情報も貴重だ。上巻を読み終え、日露戦争の下巻の途中だが、ベルツはきっと伊藤に頼まれてインテリジェンスのような業務もしていたのではないだろうか?

上巻5編と6編の間には「日本における反独感情とその誘因」というテーマの文章が収められている。ここに伊藤博文のウィルヘルム二世批判の文章が4頁に渡って掲載してある。三国干渉に対する伊藤公の批判。ベルツはそれをドイツ国民に伝える必要があると判断したのだ。ベルツ自身もウィルヘルム二世の、即ちドイツ政府の対日政策があまりにも酷いと痛感したからであろう。

もう一つ下巻の「むすび」の中に、伊藤博文をしのぶ、という文章を掲載している。5頁に渡る文章だ。そしてその次に明治天皇をしのぶ という文章。ここに日本の天皇とヨーロッパの君主の違いが書かれていて興味深い。

「ヨーロッパの君主が、その国家と国民に対して占める地位に比べて、おそらく日本の天皇の地位は、簡単に定義すれば、次のようにいえるかもしれない ー すなわち天皇は、単ある人格を表すというよりも、むしろ、ある観念の人格化されたものを表すと。従って、日本の天皇は、どいつの「ウィルヘルム」とか、イギリスの「エドワード」というより、むしろ「ゲルマニア」とか「ブリタニア」というのに近い。」

なんとなくわかる。時々個人が失われる、人権のない皇室(どう表現するのが適切かわりません)の存在を感じて、胸が苦しくなる事がある。

さて、ベルツの日記はこのまま読み進めるが、実はベルツが気になったのは新渡戸が言及していたからであって、それはベルツの論文の方にあるので、そちらを次回まとめたい。日本人、即ち神武のオーストロネシア語族説だ。