『解体新書「捕鯨論争」』
石井敦編著、新評論、2011年
衝撃的な内容である。
捕鯨擁護の日本。実は、調査捕鯨を続けるために、モラトリアム期間を延ばすような行動を取ってきた、という。
なぜか。調査捕鯨には多くの補助金や利子の優遇があるからである。そして天下り先でもある。政治的にも唯一、西欧に対し意見が言える分野であるからだ。
モラトリアム以降、日本の調査捕鯨による捕殺数が過去の8倍以上の数字、というのも衝撃的である。
自分自身もオーストラリア、ニュージーランドの反捕鯨活動に対し日本のメディア情報を元に「鯨を食べて何が悪い。日本の伝統である。」と主張してきた。しかし、海洋事業に関わる様になって、日本の調査捕鯨に影の部分がある事を関係者から聞くようになった。ただインターネットにある断片的な情報ばかりで、全体を把握できるような文章はなかった。
この本は「反対も賛成ももう辞めよう」という第3の立場を主張するものだ。短絡的に言えば「調査捕鯨反対」の立場、と言ってよいだろう。
調査捕鯨はそれほどに、一部の利益に寄与するだけで、いらない外交摩擦を生み、さらに大多数の日本国民を騙してきた。沿岸捕鯨さえ犠牲者と言ってもよい。
何よりも不思議なのが大手メディアが殆どこのテーマを取り上げない事だ。何やら原発の話しに似ているが、原発は電気会社という最大のスポンサーの圧力があるから頷ける。メディアが捕鯨擁護の立場を取るのはどのような理由からだろうか?
さて、南極の調査捕鯨にオーストラリア、ニュージーランドが反対するのは実は南極大陸近海の領土問題が絡んでいるのではないか、と以前より想像していたが、下記の記述を見つけその可能性が高い事を確認した。
(引用開始)日本の捕鯨論争ではあまり指摘されないことだが、オーストラリアの調査捕鯨への激しい反発の背景には、(中略)南極の領有権(EEZ)にかかわる国際政治上の問題も尾を引いているのである。」(引用終わり)
さらにべトナム戦争も捕鯨に関係している。十年モラトリアムについて、
(引用開始)この勧告を強力に推進したアメリカの真の狙いは、それを提案する事でアメリカを「正義のヒーロー」といアピールし、ベトナム戦争の枯れ葉剤使用に対する国際的非難を逸らすことであった、というのが「定説」である。」(引用終わり)
べトナム戦争、領土問題まで鯨を利用していたのである。水産庁が領土問題をHidden Agendaとして調査捕鯨を継続する努力をしていたのであれば、天晴である。
漁業外交は日本の対太平洋島嶼国外交と切り離せない。しかし国民が広くこの問題を意識しているとはとても思えない。
原発関連で、核廃棄物投棄(未遂)、放射能物質の海上輸送、そして今回の原発事故による海洋汚染と日本は太平洋に負担をかけてきている。
漁業問題を含め、「海を護る」姿勢を考えて行きたい。