やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「弱者の恐喝」小国の行動形式・永井陽之助論文「空間の政治学」から

私が小国の動きを「弱者の恐喝」と言うと眉を顰めるおじさん達がいる。必ずおじさんなのである。これが国際政治学を知らない一般人であれば気にしないが、大学教授に多い。 それほど「小国研究」は認知されていない。そしてこのブログを書いておこうと思った…

ダンテ『帝政論』 De Monarchia

ピュタゴラス曰く一は善である フィレンチェが生んで育てて追放したダンテ、とマキャベリ。 この初夏の欧州滞在でダンテの家を訪ねたことと、なんと国際法学者のハンス・ケルゼンの博論がダンテの『帝政論』であった事を知り、手に取った。 小林公氏の翻訳が…

『南洋群島と帝国・国際秩序』再読 沖縄の引揚者

終戦の日の靖国参拝。昭和天皇はA級戦犯の松岡洋右が合祀されていることを快く思っていなかったことが「富田メモ」にあることを初めて知った。 松岡洋右の罪の一つがドイツとの同盟であろうが、その事に関しては防衛大学の等松春生先生の博論に詳しい。『南…

Yap Treaty ヤップ協定

TREATY BETWEEN THE UNITED STATES AND JAPAN 14 REGARDING RIGHTS OF THE TWO GOVERNMENTS AND THEIR RESPECTIVE NATIONALS IN FORMER GERMAN ISLANDS IN THE PACIFIC OCEAN NORTH OF THE EQUATOR, AND IN PARTICULAR THE ISLAND OF YAP https://digital-co…

書評 "Small Island States and International Law" Carolin König

島嶼国と国際法は私の2つ目の博論のテーマなのでかなり期待をして読んだ。同志社大学図書館に購入を依頼して入手した本である。 結果を言うとがっかり。同時に各章の引用文献が500前後もあり、文献としての意味は大きい。 問題はこれだけ国家や主権とは何か…

海に沈む国家ツバルのファレピリ協定(機械訳和文)

豪州政府のウェブから https://www.dfat.gov.au/geo/tuvalu/australia-tuvalu-falepili-union-treaty/treaty-text-falepili-union スペースでコメントしながら読み上げました。 インド太平洋ポッドカフェ海に沈む国家ツバルのファレピリ協定をみんなで読もう…

海に沈む国家ツバルのファレピリ協定(スペースリスト)

インド太平洋ポッドカフェオーストラリアツバルファレピリ連合(一回目) https://x.com/i/spaces/1mrxmPPXjeQJy 豪州政府の資料を紹介しつつ、ファレピリ協定締結の基本的背景を話しました。 インド太平洋ポッドカフェオーストラリアツバルファレピリ協定二…

読書メモ『近代中国の革命と秘密結社』

三合会の広がりはインド太平洋を超えた世界をまたぐ動きである。やしの実通信のブログで今まで取り上げてきたので、こちらに読書メモを書く。 孫江博士の博士論文『近代中国の革命と秘密結社』(2007年、汲古書房)は早く読みたいと思っていた。同志社の図書…

永井陽之助著「鯨の象徴学」ベトナムの教訓と米国知識人

永井陽之助先生 太平洋島嶼国の論文を書くために、引用文献の『時間の政治学』を久しぶりに手にした。国際政治学者、永井陽之助先生の論文で、私が太平洋島嶼国に関与して10年近く疑問に思っていた小国とは何かを思いっきり正面から、天辺から教えてくれた。…

UNCLOSの独自解釈を進めるトランプ政権(私は賛成派)

ISA無視の海底資源採掘がトランプ大統領令を得て進んでいる。メディアや国際法専門家の批判コメントが多い中、賛成の声もある。 カナダのThe Metal CompanyCEO のGerard Barronが紹介していた米国高官のコメント。なお Barron氏はオーストラリア人。 Meeting…

UNCLOSとバチカン・パドロ大使が参照したバチカンの人類共通の財産

私が海洋法を学び始めた頃、2017年だが、"Pardo"で検索していて出てきた論文に, パルド博士の「人類の共同財産」のアイデアはバチカンのヨハネ23世が当時発表した回勅『Pacem in Terris』であると書いてあり、印象に残った。きっと色々な論文で議論されてい…

ヘレンクラークも非難するクック諸島の中国接近🇨🇳🇨🇰

自由連合協定を結ぶクック諸島とニュージーランド。クック諸島が中国と協定を締結した件で、両国の関係に緊張しています。 親中路線のヘレン・クラークがクック諸島政府を批判。この意見は重要です。 https://www.rnz.co.nz/international/pacific-news/5647…

マーシャル諸島と国連で暗躍する中国詐欺師

文章は後ほど https://www.occrp.org/en/news/us-imprisoned-head-of-a-bogus-un-agency-using-the-name-of-his-twin https://www.occrp.org/en/news/convicted-fraudsters-stranded-abroad-after-marshall-islands-revokes-their-passports インド太平洋ポ…

『島の科学者』坂野徹著 読書メモ

以前から読みたかった本である。 パラオの熱帯生物研究所の存在。 戦前は日本のベストアンドブライテストが太平洋島嶼の研究をしていたのである。 最初の方で松岡静雄が言語学を基盤に展開した人類の拡散が信用できない論理である、と書かれているが著者がオ…

The Law Of The United Nations (1951) by Kelsen Hans "Preface"

PREFACEON INTERPRETATIONTHIS book is a juristic-not a political approach to the problems of the United Nations. It deals with the law of the Organisation, not with its actual or desired role in the international play of powers.Separation o…

Alex Frame 南太平洋諸国の憲法と習慣 角田猛之訳

アレックス・フレイム「南太平洋諸国の憲法と慣習」(1)角田猛之 関西大学 法学論集 第66巻 第3号 平成28年9月 アレックス・フレイム「南太平洋諸国の憲法と慣習」角田猛之(2) 関西大学 法学論集 第66巻 第4号 平成28年11月 角田猛之教授がニュージーラ…

ケルゼンの自決権批判

ケルゼンの国連憲章批判、約千ページもあり、私が今まとめようとしている、自決権に関連する「信託統治」に関しても百ページ近い記述があり、興味深く読んでいる。 純粋法理論、姿勢を崩さず書いているが故に、逆になまなましい政治の動きが浮き出てくるのだ…

太平洋の越境犯罪と日本のヤクザ、統一教会(3)

なぜ私がこの問題を追っているのか? なぜパラオのジェニファー・アンソンから協力を依頼されて断れなかったのか? ジェニファーへの協力は全くの無償である。しかも5−6年の期間ほぼ毎日彼女から来る調査依頼に対応した時間は数千時間を超えるだろう。 それ…

太平洋の越境犯罪と日本のヤクザ、統一教会(2)

ジェニファー・アンソンから 「にしぞのまさお って知っているか?」 と聞かれたのは2019年頃だった。日本人ビジネスマンがパラオのホテルで焼身自殺をした話は有名であったが詳細を知ろうと思ったことはなかった。以下ウィキにある情報だ。Shuster, Donald …

太平洋の越境犯罪と日本のヤクザ、統一教会(1)

太平洋の小さな島国が世界レベルの越境犯罪の舞台になっている話はある程度知られているだろう。有名なのはソ連崩壊とともに誕生したオリガルヒらによるナウルでのマネーロンダリングだ。約700億米ドルである。他にもクック諸島のイタリアマフィアのホテル投…

Micronesia Media Association, which has vanished into thin air

Among the projects of the Sasakawa Pacific Island Nations Fund, a 3 billion yen fund that I have been running on my own since 1991, the media project was not the main project, but it was an important one.In the early 1990s, I was thinking …

幻と消えたMicronesia Media Association

私が1991年から一人で運営してきた30億円の基金、笹川太平洋島嶼国基金事業の中で、決してメインではなかったが重要な事業がメディア事業であった。 90年代初頭、太平洋に散らばる一つ一つのメディアにコンタクト取るのは大変だと考えていた矢先、フィジーで…

New Year's greetings: the right of self-determination in New Caledonia and Micronesia

Since I started this blog, I have had the custom of giving my New Year's greetings here. However, from the end of the year, I had to go to the hospital every day for a major operation on a family member, and after he was discharged from ho…

新春のご挨拶:ニューカレドニアとミクロネシアの自決権

このブログを開始してから、この場で新年のご挨拶をさせていただく習慣がありました。しかし年末から家人の大きな手術で病院に毎日通い、退院後は車椅子を押す生活が2月まで続きました。それだけでなく子供たちとのロングホリデーを共に過ごし、スキー、ユー…

🇲🇭🇩🇪友好条約1885メモ

やはりブログに書いておかないと後で資料が探せない。 今太平洋島嶼国が大国の地政学野心の結果としてチェスボードになっているという批判があるが、100年以上前にすでに島嶼は西洋諸国と協定を締結し、国内の政治的安定に利用していた、という側面もあるの…

1855🇹🇴🇫🇷友好条約と1980🇹🇴🇫🇷EEZ境界線確定条約メモ

1855年に署名されたトンガとフランス平和友好協定が、125年後のEEZ境界線確定条約に繋がるという話。どの章で議論すべきか・・・ Convention of Peace and Friendship between France and Tonga, signed at Tonga-Tabou, 9 January 1855 Convention on the d…

読書メモ:The changing phases of diplomacy in a Small Island Developing State: A case study of the Kingdom of Tonga

前から読みたかったトンガ王国の文献 以下メモ <1章> SIDSの文献は限られているが、2000年頃から徐々に増えてきている。 e. Literature Review The literature on SIDs has gradually increased over the past 20 years, focusing specifically on issues…

早川理恵子論文・記事・書籍・学会発表リスト

Conference Presentation 早川理恵子 同志社大学大学院法学研究科/オタゴ大学博士ニュージーランドの自由連合 太平洋島嶼国の自決権と国際法第3報告 ニュージーランド学会・日本ニュージーランド学会合同研究会2023年10月28日(土) Jennifer Anson, Nationa…

自決権に関連する学会発表・論文と関連資料 (2017年〜2023年)

同志社大学の新井京教授から「君は何も知らない一から学べ」と言われて倫理委員会に訴え、提出したリスト。思い出すのが大変だったが、自分でもこんなに実績があると思わなかった。そもそも新井教授は私の研究内容を知らないのになんで何も知らない、と言え…

A New Howard Hughes: John Meier, Entrepreneurship, and the International Political Economy of the Bank of the South Pacific

トンガ首相の急な辞任のニュースを聞いて思い出した論文です。首相と王室の緊張の原因の一つがLulutaiというトンガの航空会社の存在。中国から2機の飛行機をもらって運営していました。この航空会社を最初に支援しようとしたのが笹川良一。そして米国人ジョ…