やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

Missing Link-Global nerve (GII) - Human Capability

ICT4Dの歴史的背景を追っている。

50年代から始まった脱植民地化と宇宙開発。

80年代、ITUが出したメイトランドレポート The Missing Link

90年代のゴア副大統領が推進したGlobal Information Infrastructure

そして2000年のG8で発表された沖縄憲章、とWSISだ。

脱植民地化と宇宙開発については以前このブログに書いた。

メイトランドレポートは今回改めて目を通した。経典のように有名であるが故に読まれていない資料の一つだそうだ。

この報告書にmissing linkをつなぐ一つの成功例としてPEACESATがあげられている事を太平洋のICT研究者は殆ど知らない。読んでいない証拠だろう。

手元にある「Maitland+20―ミッシング・リンクの解消」をガイドにしながら読んだ。

この報告書の反響は大きかったが反応は悪く、その後20年たっても情報格差は勧告通りには解決されなかった。

委員長のメイトランド卿初め、ICT専門家外の委員が多く、その協議内容はイントロで述べられているようにこの委員会が政治的性格である事を全委員が認識していた。その内容は技術的な事よりテレコミュニケーションの役割について、特にユニバーサルアクセスに重点が置かれていた。

ゴア副大統領は1994年ブエノスアイレスで開催された第1回世界電気通信開発会議でGII構想を発表する。演説の冒頭、テレグラフの開発に触発された小説家ナサニエル・ホーソーンの一節(1851年)を引いた自分の高校時代の作文を読み上げる。

"By means of electricity, the world of matter has become a great nerve, vibrating thousands of miles in a breathless point of time ... The round globe is a vast ... brain, instinct with intelligence!"

こちらは『GII世界情報基盤』に収録されている公文俊平教授の解説をガイドに読んだ。

米国国内の通信法改正を睨んだ、どちらかというと国内にアピールしたGII構想である事が今回改めてわかった。通信を自由化するとマーケットが世界中に広がりますよ、という話だ。

米国は他の国と違って、電話通信会社が第一次世界大戦の1年だけ国営となったが、当初よりずっと独占民営であった。巨大電話会社ATTの解体は歴史的事業である。

翌年、1995年にはGIIを進める具体的な文章が出される。"Agenda for Cooperation: Global Information Infrastructure"だ。ここにはICT4Dの話は殆ど出て来ない。先進国がGIIを進めると途上国にも利益になる、という程度である。

面白い事にこの文章にPEACESATが成功例としあげられているのだが、メイトランドレポートと全く同様な記述である。PEACESATの役割はこれだけはないのに。PEACESATの評価はしっかりやりたい。

"Computer and satellite networks can provide monitoring and, in some cases, early warning of natural disasters, allowing for better coordination of humanitarian assistance efforts between host and donor countries, speeding the delivery of aid and assistance. In the South Pacific, the PEACESAT satellite network has been used to coordinate emergency assistance after typhoons and earthquakes, and to summon medical teams during outbreaks of cholera and dengue fever;"

最後は沖縄憲章だ。IT憲章としても知られている。

日本が5年で150億ドルの支援をする事をアナウンスした事も世界から注目を浴びた。

今回偶然にもこの憲章を起草した外務省の冨田浩司氏の解説文書を見つけた。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/ko_2000/genoa/it_1.html

冨田氏によれば「この(情報社会のあり方について首脳の一致した)認識の核心は、人間の主体性の確認であり、ITは人々が自らの潜在性を十全に発揮するための手段として位置付けられる」「IT利用の拡大はリスクを内包しており、ITの発展自体を自己目的化することには危険が伴う。」

IT憲章と呼んではいけなかったんだ。すばらしい考察である。まさかICT4Dに関連し「潜在能力」を日本の官僚が考えていたとは。これは自分の博士論文にしっかり書いておく。冨田浩司氏にもいつかインタビューしたい。

しかし、メイトランドレポート同様この沖縄憲章も反響の大きさとは裏腹に実際的な影響という点では批判も大きい。

2003年から始まった国連とITUが主導するす世界情報社会サミット通称WSISはまた膨大な資料になるので適切なガイドを見つけて今後整理したい。

この準備会合が2003年1月東京で開催された。当初「WSISアジア地域会合」と称されていたが「WSISアジア・太平洋地域会合」と"太平洋"が後で加わった。実は笹川太平洋島嶼基金が太平洋の島からNGOメディア等関係者を招聘しイベントを開催したことがきっかけである。私が基金運営委員長や基金室長を唆して、実現させたのである。オーストラリアのNGO国連大学がカウンターパートとして、前向き且つ積極的だった事も幸いだった。

その結果「東京宣言」には島嶼国に特別な配慮がされる事が明記され、その後のWSISの議論にも継続して取り上げられたようである。