やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

メラネシアン社会主義

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4月1日に開催されたバヌアツ・ロシア外相会談、と バヌアツに到着した中国からの支援物資を運搬した飛行機

バヌアツのサイクロン被害が、ロシア、中国、オランダも巻き込んだ、国際政治の動きに急展開している。

人口26万の南の島の小国。

ほとんど国際政治に影響がない、と思われているであろうバヌアツがどうしてこのような展開を見せるのか。

Second Chinese Chartered Plane with Disaster-relief goods arrives

Vanuatu Daily Post

http://www.dailypost.vu/news/article_4576ee91-1163-53f6-abaa-a821800af679.html?mode=jqm

上の記事では、3月27日中国から2機目のチャーター便が到着。540のテント、65の防水シート、6.5トンのクッキーを運んだという。1機目は3月22日に到着し260のテントを運んだ。

そしてロシア。

Foreign Minister to meet Russian counterpart

Vanuatu Daily Post

http://www.dailypost.vu/news/article_49b4f72d-b45b-5db6-a2d5-95e70a1705ff.html?mode=jqm

こちらも飛行機2機分の援助物資を早々に届ける、という事だ。

そして1986年に国交が結ばれた両国の外相会談が30年後初めて、4月1日にロシアで開催された。

<中国とバヌアツの関係>

バヌアツは1980年の独立2年後には中国と国交を樹立している。

過去10年くらいはトンガに続く、中国の太平洋進出の拠点、と言ってもよいであろう。

中国からの投資、援助、移民に関するニュースがメディアによく取り上げられている。

勿論その背景にはタックスヘブン制度がある事は否定できない。

<ロシアとバヌアツ>

ロシアの援助は意外であった。

中国に遅れる事4年、1986年にバヌアツはロシア(ソ連)と国交を樹立。

同年、米国とも国交を樹立し、1987年には漁業交渉でロシアに入漁権を与えた。

冷戦終結後のロシアとバヌアツの関係と言えば2011年のグルジアの件であろうか?

バヌアツがアブハジアを承認 ロシア通信

日本経済新聞 2011/6/1

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM0100V_R00C11A6EB1000/

<ロシアンマネー>

太平洋で跋扈しているのはチャイナマネーだけではない。ロシアンマネー、しかもマフィアの資金洗浄の話は余りにも有名だ。

「泥棒も入らない貧乏長屋」と言われた世界で3番目に小さい国・ナウル共和国の興味深い歴史

[橘玲の世界投資見聞録]

http://diamond.jp/articles/-/53801?page=4

ロシア情勢をよく知る知人に聞いてみた。

「現在のプーチン大統領の狙いの一つに、かつてロシアの国家資産を私物化して海外に送金したオリガルヒやマフィアの資金をロシア国家に取り戻すといったものがあるようだ。バヌアツの記録を通して、ロシア~英国のシティ~イスラエルアブハジアグルジアのマネーの流れを掌握する狙いがあるのかも。」

知人の説明は長く、入り組んだ解説が前後にあるのだが、当方チンプンカンプン。

が、臭う。感覚的に、直感で理解しました。

メラネシア社会主義

最後に、ロシアや中国と関係を深める結果となったバヌアツの「メラネシア社会主義」について下記のPremdasのペーパーを参照して触れておきたい。

メラネシア社会主義」は独立を導いた初代リニ首相が提唱したイデオロギーである。

Ralph R. Premdas (1987) “Melanesian socialism: Vanuatu’s quest for self-determination”.

リニは、英仏が持ち込んだ資本主義へのアンチテーゼとしてメラネシア社会主義を主張した。

リニによれば、それはマルクスよりもレーニンよりも以前の、バヌアツの伝統的概念だという。

下記の3つの概念で整理される。

communalism v. individualism;

sharing v. self-interest;

humanism v. materialism

そして、リニのメラネシア社会主義の根源には、キリスト教パプアニューギニアで生まれたメラネシアンウェイ(このブログのカテゴリーで使わせていただいています。)そして、タンザニアで生まれた社会主義アルーシャ宣言がある、という。飽くまでもマルクスではないのだ。

Premdas は理論に裏打ちされていないリニの社会主義は、既に資本主義が蔓延していたバヌアツでは意味がなかったし、村々の伝統的価値観はリニが掲げる社会主義に反して競争意識や差別が習慣として残っていた、と指摘する。即ち機能していなかった、と。

それでも3千年のバヌアツの歴史の中で、始めて110+の言語、即ち異なった民族を統一するには、カリスマのあるリニが、「メラネシア社会主義」というラディカルな方向性を国民の前に掲げる必要があった、という事である。

太平洋では、バヌアツ(加盟年1983)、パプアニューギニア(1993)、フィジー(2011)の3カ国だけが非同盟諸国メンバーとなっている。

これが、メラネシアスピアヘッドのサブリジョナルの動きと連動しているのは一目瞭然。

太平洋の新リジョナリズムとはBRICS始め、非西洋グループと西洋グループの問題なのである。それを後押ししているのが太平洋島嶼国に対してbullyな態度を取る豪NZと、「太平洋の世紀」とかけ声だけで全く関心をしめさない米国の太平洋政策なのである。