やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

「UOG Green」

「UOG Green」

 昨年、神戸の須藤健一教授が大阪民族学博物館館長に就任された。グアムのロバート・アンダーウッド博士がグアム大学学長に就任された。またパラオのファウスティナ・レフーハー氏が文化大臣に就任。皆さん昔基金事業にご協力いただいた方々だ。

 昔の恋人が出世しても指をくわえて見ているしかないが(一般論として)、昔の助成先、委託先が出世したとなれば話しは違う。早速お祝いのメールと近況をご報告した。

 グアムのアンダーウッド博士は、ミクロネシア海上保安事業を進めるに辺り重要なリソースパーソンになる可能性がある。

 笹川太平洋島嶼基金との出会いは1991年に遡る。当時アンダーウッド博士はグアム大学副学長で「太平洋島嶼国教育者サミット」開催の話しを進めていた。島嶼基金はこれに15,734,400円の助成を決定した。

 1993年から2003年、アンダーウッド博士はアメリカ合衆国下院議員としてワシントンDCで活躍。よってアメリカの、特にワシントンDCの動きは詳しいし人的ネットワークもある。オバマ政権で抜擢された、連邦政府内務省離島問題事務局のトニー・ババウタ次官補はアンダーウッド学長が下院議員時代のスタッフで、グアム出身。グアンタナモ収容所にいたウィグル人のパラオ受け入れはババウタ、アンダーウッドの発案、と噂されている。

 笹川太平洋島嶼基金は上記の「太平洋島嶼国教育者サミット」を皮切りに、グアム大学へ総額約8千5百万円の助成を実施している。(下記リスト参照) 

 米領グアムは当然ながら日本のODA対象ではない。東京と飛行機で3時間の距離にありながら、日本政府とのやり取りは米国本土の日本大使館経由である。

 島嶼基金は日本政府が2国間支援を基本としていたので、多国間支援を基本とした。ミクロネシア3国への支援をグアム大学を中心に展開してきたのである。グアム大学の方もミクロネシア地域唯一の4年制大学として、地域高等教育機関としての役割がミッションとなっている。

 

 2010年2月中旬、アンダーウッド学長とのアポがとれグアムを訪ねた。

 まずは米国の新太平洋政策について聞いてみた。クリントン長官が1月にハワイの東西センターで発表した”Regional Architecture in Asia: Principles and Priorities”について聞いてみた。

 東西センターにあるPIDPでは米国の島嶼国政策を担えない。PIDPの予算は全体のたった5%、モリソン所長は大国、中国ばかりに目が向いている。グアムこそが次の太平洋島嶼指導者会議を開催するのにふさわしい、とのことであった。ここは政治家の顔であった。

 2番目に、2000年頃から進んでいるミクロネシアの地域協力の枠組みの動向について尋ねた。このミクロネシア地域協力は、ミクロネシア3国だけの枠組みと、グアム、サイパンを含む2つの枠組みがある。

 リーダーの変更がめまぐるしく、決定事項がなかなか実行されないことを指摘。確かにここ数年を見ていてもミクロネシア3国の大統領は次々と変わり、政府のキャパシティの限界もあり実行が見られない。その点、大学は継続した事業の実施が可能な機関である。即ちミクロネシアの地域協力の拠点としてグアム大学を積極的に位置づけたい、という意向。その具体的事業としてCenter for Islands Sustainabilityの設置計画を最優先課題として検討中だ。

 3番目に、グアム大学の地域高等教育機関としての役割を伺った。アンダーウッド学長は今までの学長の中でもミクロネシア地域全体をよく認知しており、グアム大学の地域の役割を重視している。世界の大学でミクロネシアのことに詳しいのは唯一グアム大学である、と主張する。そこで注目されたのが、今まで基金がグアム大学に助成した、ミクロネシア地域全体に裨益する事業である。

 助成事業では主に教育・医療サービス向上のための通信環境の改善を進めてきた。特に離島への短波ラジオ施設の設置はUSCGやNOAAとの連携で多くの人命を救ってきた。離島には通信利用のため、太陽光電池が設置されている。

 翌週、日本島嶼学会の招きで沖縄訪問を控えていたアンダーウッド学長は、沖縄、グアム、ハワイが島嶼経済、島嶼開発を共に考える必用がある、という。例えば、軍事基地開発において、土地の価値はすぐ評価し計算できても沿岸の価値を評価する指標は沖縄にあるらしいが、グアムにはまだない、という。

 慢性的財政難に悩むグアム大学にとってアンダーウッド新学長は救世主のようだ。連邦政府の教育省から予算増額は期待できないがオバマ政権が新エネルギー政策に力を入れていることを知っている。既にグアム大学に数億円の新エネルギー研究予算をもってきた。

 「環境」というキーワードで大学の起死回生を図ろうとするアンダーウッド学長。キャッチコピーは”UOG Green”.

(UOG = University of Guam)

<グアム大学への助成事業リスト>

(事業名、助成年度、助成額の順)

太平洋島嶼国教育者サミット

1991年度 15,734,400円

ミクロネシア看護医療改善のための遠隔教育

1997年度 8,839,498円

1998年度 8,028,864円

1999年度 4,782,900円

西太平洋地域における遠隔教育の基盤整備

2000年度 5,522,000円

ミクロネシア地域における遺跡保護管理の人材育成

2000年度 824,197円

2001年度 3,780,297円

2002年度 3,863,500円

西太平洋における遠隔教育連盟設立支援

2001年度 6,239,500円

2002年度 6,319,000円

2003年度 7,995,049円

2004年度 5,324,500円

2005年度 8,302,350円

(文責: 早川理恵子  2010年3月10日)