やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

盗人を捕らえてみれば我が子なり

<盗人を捕らえてみれば我が子なり>

 2年前の2008年、笹川平和財団ミクロネシア沿岸警備案件の立ち上げ作業が始まり、ミクロネシア3国の大統領がそれを全面的に支持する旨のレターを米豪政府に送った。当初それに対する米国高官の反応は冷ややかだった。私が勝手に嫌みたっぷりな行間を読んだだけかもしれないが、概ね米豪の外務省の反応はこの範囲である。米国高官とは政権交替後イラクに飛ばされたクリストファー・ヒルだ。確かに日本漁船が取り締まられており、「盗人を捕らえてみれば我が子なり」の状況もあり得る。

 しかし、敵(豪米)も一枚岩ではない。クリントン長官は官民協力を支持しているし、現場の苦労を知るUSCG, Royal Australian Navy(RAN)は日本の貢献を期待している。だからこそUSCGは我々の調査ミッションに参加し、現地のRANオフィサーはこちらがうんざりするほど熱心に現状を説明してくれた。

<そこにマグロがいるからだ>

 笹川平和財団が示したミクロネシア3カ国の海洋安全保障支援に同大統領サミットが当初から大乗り気だったのは、以前より海上監視活動を主要議案として継続論議していたからだ。多国間監視制度であるニウエ条約のミクロネシア3国準協定を発効。漁業資源が豊富な8つの太平洋島嶼国で構成されるナウル協定の強化も進められていた。我々の意図はこの2つの活動と一致した。

 日本側は太平洋における中国の軍事的脅威、海洋資源の管理等がミクロネシア海域への主要関心事項だ。他方、島嶼国側、ミクロネシア3国の優先順位は海洋資源でも主要収入源である漁業権、「マグロ」収益の確保だ。

 太平洋で取れるマグロは世界の60%を占める。末端価格にして年間4千億円。島嶼国が得ている漁業権収益は百億円で3%に満たない。この状況を打開しようと昨日2月25日、パラオ島嶼国首脳会議が開催された。(詳細は次回ご報告します。)

 ミクロネシア3国にとっては自分の領海内で米国の核搭載艦船が我が物顔で行き来するのも、当該地域への中国の軍事的拡大も大差ない。嘗て対立する米ソを相手取った漁業交渉で独立したばかりの小国キリバスが大国を手玉に取ったことを忘れてはならない。

<ここにもあった科学を超えた問題―漁業資源>

 日本の水産庁は規制をかけるほどマグロの数は減っていない、という。ここでも島が沈むか沈まないかと同様な科学を超えた議論があるようだ。

 素人の私にはマグロの数を数える、しかもどこを泳いでいるのか場所まで確定するなんてどうやるのか想像もつかないが世界の科学者が集まって統計を取り、かつ資源管理計画を立てた。ところがあろうことか日本は漁獲量の不正申告をした。漁獲申告量と市場に出回る量が一致しないことを調査し暴いたのはオーストラリアだ。日本は罰として漁獲枠を制限された。

 日本語のニュースではあまり見かけないが、違法操業で日本漁船が捕まったという英語のニュースは時々見る。昨年何度か訪ねたポナペの港には「おりょう丸」がつながれたままであった。違法操業で捕まったらしい。

<我が子なら守ってみせようおらが海>

 漁師さんは命がけで私たちが食べるお魚をとりに行く。燃料代の高騰、魚の価格の下落で、無理な操業もある。魚群を追って許可域外に入ってしまうこともあるだろう。量を取らないと収益にならなければ、許可された漁獲枠より多くとってしまうこともあるだろう。手ぶらで帰れば何千万、何百万円の借金と家族が待っている。

 このような日本の漁業のあり方を改革する提案もある。ここでは長くなるので省くが、海洋安全保障で漁業問題を避けて通ることはできない。

 2010年3月、ミクロネシア3国と豪米日本が同じテーブルに着き、ミクロネシア海域の監視体制について協議を開始する。

 水産庁の主張通り、漁業資源がたとえ減っていなくとも、日本漁船の違法操業が何かの間違いだとしても、監視されている側にある日本が、監視している側にある米豪とミクロネシア3国と共に監視側に回るのは矛盾しないはずだ。

 米豪は全く違法操業をしていないのか?不正申告をしていないのか?監視、管理する側に回ればそれだけ情報を得られる立場になる。つらい思いをするお龍さんは一人でいい。

<会議の詳細>

ミクロネシア海上保安整備に向けた初の6ヶ国委員会開催に関するご案内

http://www.nippon-foundation.or.jp/org/press/10022404.html

(文責:2010年2月26日 早川理恵子)