やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

国際政治と考古学

国際政治と考古学

 昨年、2009年『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』(ナヤン・チャンダ著)が和訳出版され、話題になったようだ。

 高名な国際政治学者で私の先生でもある渡辺昭夫先生、山内康英先生が新鮮な驚きを持ってこの本を語っていたことを、私は新鮮な驚きを持って見ていた。

 というのも、私は数千年前、数万年前のことしか語らない考古学者と日々を過ごしていて、人類5万年の人の移動のダイナミズムは当たり前の話だったからだ。

 よくヨーロッパの植民地支配が非難される。例えば、太平洋の島の人々は、西洋人の植民地支配が始まる前は楽園のような生活をしていたのだろうか?それは西洋人の勝手なイメージに過ぎない。5万年の人間の歴史は、侵略、略奪、殺戮、搾取の繰り返しであったはずだ。(同時に受容、寛容、共生、慈愛の繰り返しでもあった。)だからと言って前の植民地支配が正当化される、ということでは勿論ない。

 Nation-Stateという枠組みができたのはほんの数百年である。5万年のスパンから見れば針の先のような長さである。

 そこで、国際政治学者には、たまには「国家」という枠組みを外して考古学的視野で世界を観ることを薦めたい。また考古学者には、国際政治学的視野、即ち私たちの今の生活に、数千年数万年前の人間の活動がどのような意味を持つのか、考えて欲しいと思うのである。

(文責:早川理恵子)