やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

特殊な事情と皮肉な結果  ―旧敵国本陣で考えた日本の海洋安全保障

特殊な事情と皮肉な結果

 ―旧敵国本陣で考えた日本の海洋安全保障

<旧敵国本陣へ>

 羽生会長から旧敵国の本陣、オーストラリアのキャンベラに一人乗り込み、外務省、現役・旧軍人、学者ら誰でもいいから話をしてこい、といつもの豪快な指示があった。

 安全保障の専門家達は民間団体の、しかもか弱き乙女が来て怪しんでいる様子。

 しかし、日本財団の歴史やマラッカ・シンガポール海峡への40年に亘る130億円以上の支援、豪州とAPEC創設を主導した大平首相が当初”Pacific Ocean Community”と言っていたこと、それを受け日本政府に10年先駆け笹川平和財団が「島サミット」を開催したことなどを説明すると、向こうは身を乗り出して聞いて来るのであった。

<日本の安全保障の特殊な事情>

 こうやって話していて気付いたことは、戦後、海洋安全保障に関する活動を一民間団体が担ってきたことが世界的にみても相当ユニークな現象なのではないか、ということだ。それは敗戦国の日本が軍事的にも法執行力としても海外の海洋で行動することが難しかったし、政治的意志を表明することも難しかった、という歴史的な背景があるにしても、その中で日本財団が一人地道な支援をしてきたことは充分意識して国内国外を問わず、関係者に語っていく必要がある。

<皮肉な結果>

 戦後の世界は、戦勝国がその軍事力や警察力で海洋安全保障を担ってきた。しかし、海賊問題、テロリズム、自然災害など「安全保障」の枠組みが多様化し、軍事力だけでは対応しきれない現実に面している。豪州ではWhole Government Approachが2年前から検討され始めているし、豪州王立海軍が展開するPacific Patrol Boatも日本の海上保安庁に近いCustom Border Protectionに移管することが検討されている。

 安全保障の多極化により、豪州だけでなく世界的に行政、民間などを巻き込んだ包括的アプローチが検討され始めたところである。

 このことは、皮肉にも日本の一民間団体が国家の安全保障を担ってきたケース、即ち敗戦国の経験が戦勝国にモデルを示す可能性があるのかもしれない、ということに気付き、これも今後充分意識して語る必用がある、と考えた。

(文責:早川理恵子)