やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

年末の読書『インヴィジブル•ウィポン』

締め切り間近の原稿を抱え、本当はそっちに集中しなければならないのだが、読み出した2冊の本が面白くで、止まらなくなった。

一冊は以前グラフにまとめてブログに書いた本で『インヴィジブル•ウィポン』である。

結構長いのだが、続きが読みたくて朝の4時に目が覚める程。(時差、年のせい、との説もありますが。)

私は修士を3つ持っているのだが(3つ目はcertificate)2つ目の国際政治を学びたいと思ったきっかけが、事業で扱ったUSPNet, PEACESATだった。事業を進める中で、情報通信(ICT)とは技術でも中身でも、また資金でもなく、国際政治である、と痛感したからだ。両者は衛星を利用していたので、衛星開発が進むケネディ政権から見て行く必要があった。

この『インヴィジブル•ウィポン』はどこかで見かけて、ケーブルの長さの国際比較があったので気になっていやが著書名も著者名もメモせずに放っておいた。今抱えている原稿(学術図書です。)の参考資料で必要と思い必死になって探したのである。しかもこの本、英文出版20年後に和訳されていた。英語で読むのは時間がかかるが日本語だと、それは早い。

海底ケーブルの初期から第二次世界大戦開始までが描かれているが、当方にとって驚愕の事実が次々と出て来るし、著者の視点は、まさに自分がICTを国際政治で分析したい、と考えていた事と一致している。なんでもっと早くこの本を手にしなかったのであろうかと猛省した。

はしがきに

”前略 ー だが20世紀の大半を通じて電信は人々をを分離し孤立させる目的で政治によって管理され、ゆがめられ、変形されて来たのである。本書はこのパラドクスを理解するための一つの試みである。”

とある。

そうなのだ。ICTは人を、情報を繋げるといより、政治的に分離、孤立させてきた。

英国が一大ケーブル帝国を築くのだが、なぜそのようになったかも史実と共に説明されている。

興味深い事は多々書かれているが、19世紀の日本と中国のICTに対する対応である。中国は帝国主義による植民地支配としてICT開発を受け入れず、最終的に悪徳企業による搾取的、私的独占企業にやられてしまった。これとは好対照だったのが日本。

1869年にはイギリスの通信技術者を招き横浜ー東京間を結び、1970年にはグレート•ノーザン電信会社に権利を認め、上海、ウラジオストクを長崎に繋げる。1972年にはヨーロッパに留学生を送り電信技術を獲得。1891年の時点で11,610キロの陸上電信網、435の電信局があったという。

しかし、このICTに対する理解と能力が第二次世界大戦では全く働かない。

もう一つ面白いのは英国が海底ケーブルの優位に立ったのは、企業に条件なしで権利を与えたからである、という。他国は権利を与える代わりに自国政府への優遇を条件とした。結果、全てのケーブルが英国につながり、英国の貿易、政治の優位性を導く事となった。

そしてこの世界に張り巡された海底ケーブルによって、情報戦、プロパガンダが誕生する事となる。通信が発達していない状況では、将校達は遠隔地の戦場でクラウゼヴィッツが形容したFog of Warの状態で戦わなければならなかった。しかし通信がその状況を一機に変えた。戦いは太陽の下で行われるようになったのだ。しかし、この太陽に誰もが平等に照らされる訳ではない。

サイバーセキュリティ、インターネットガバナンスが議論される今もこの状況は変わらない。誰もが一瞬で世界と結びつく現在では、状況はより混沌としているのかもしれないし、それと同時にポジティブな面も多々あるのだと思う。

次回は『宿命の子』