やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『国際海洋法の現代的形成』田中則夫著、東信堂、2015年(2)

2節の海洋保護区の国際法的基盤では具体的条約を示し議論されている。

MPAを直接規律する一般多数国条約はないが、MPA設定に関係する同条約は存在する。

主な条約は下記の6本。

i 国際捕鯨取締条約(1946年12月2日署名、1948年11月10日発効)

ii 南極制度関連諸条約

iii ラムサール条約(1971年2月2日採択、1975年12月21日発効)

iv ユネスコ世界遺産保護条約(1972年11月16日採択、1975年12月17日発効)

v MARPOL73/78(1978年2月17日採択、1983年10月2日発効)

vi 国連海洋法条約(1982年4月30日採択、1994年11月16日発効)

vii 生物多様性条約(1992年6月5日採択、1993年12月29日発効)

下記、意識に止まった箇所を引用しておく。

i 国際捕鯨取締条約:締約国が捕鯨を行うすべての水域とされており(第一条2項)公海、EEZ、領海の違いは問われない。(同書252頁)

ii 南極制度関連諸条約:1959年の南極条約は南緯60度以南の海域と氷の大陸に適用され(第6条)そこには領域もEEZもないので公海上MPAである。(同書254頁)

iii ラムサール条約:湿地の構成部分は湿原、河川、湖沼、干潟、藻場、マングローブ林、珊瑚礁などで海洋も一部含まれるのでMPAに関する条約ともいえる。(同書258頁)

iv ユネスコ世界遺産保護条約:条約は文化遺産(第1条)と自然遺産(第2条)に定義される。現在では「自然遺産」とされる地域の中で、海洋区域を含むものの場合は、その地域はMPAに該当すると理解されている。

v MARPOL73/78:IMOによって設定された特別敏感海域(Particular Sensitive Sea Areas: PSSA)は世界に15区域あって、海域の一部が領海を超えEEZに及んでいる。(262頁)

vi 国連海洋法条約:海洋環境保護義務を定めた第192条、生物多様に関連した第194条、  EEZも含む船舶汚水防止措置を定める第211条、公海における生物資源保護と管理を規定した第118条、深海底低保護に関する145条、海洋保護の為の世界的、地域的協力を規定した第197条など、MPAに関連した条項がありMPAとUNCLOSの整合性、科学的根拠の両留意しながら、公海上でのMPAに関する議論(BBNJ)が提起されている。(同書263−264頁)

vii 生物多様性条約:同条約はMPAを直接言及していないが、ジャカルタ・マンデイトで、海洋生物多様性を保護するために生態系アプローチの一部としてMPAの設定を奨励。Coastを含むMCPAという概念が用いられている一方、国家管轄圏外のMPAの設定問題を検討している。(265-266頁)

次は地域条約と主要国(豪米)のケースを紹介。