やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『大航海時代の日本人奴隷』 ルシオ・デ・ソウザ (著), 岡美穂子 (著)

 

拙著『インド太平洋開拓史 二つの海の交わり』を書く中で、パプアニューギニアの国境線がなぜ南北にほぼ真っ直ぐに引かれているのか、トルデシリャス条約とスパイス諸島の件に「軽く」触れようと思った。しかし、文献を確認していく中で、どんどん蟻地獄にはまったように深みにはまったのだ。とりあえず、ティドレ島のサルタンのところでとどまった。

スペイン、ポルトガル、オランダ、そしてイギリスが入り乱れる南シナー東南アジアの攻防戦の中に日本人、すなわち倭寇や傭兵が出てくるのだ。興味はもったものの、切りがないので諦めていたところ、FBFで大分県を中心とした海洋問題に取り組む下川正晴氏が『大航海時代の日本人奴隷』を紹介しており思わずキンドルで購入してしまった!

 

日本人奴隷の存在は長らく否定されてきたし、先行研究も限られているなかで1978年ポルトガル生まれのルシオ・デ・ソウザ博士が一次資料を読み込んだ史実が、淡々と書かれている。この「淡々」さが逆に日本人奴隷の壮大な、欧州から南米にも広がる、まさにインド太平洋を結んだドラマとして迫ってきた。

イエズス会の奴隷貿易というのは聞いたことがあるが、日本国内で日本人自身が人さらいや、戦争の捕虜として奴隷市場を作ってきたのだ。中には自分の意思で奴隷となった人もいる。奴隷の扱いもさまざまで、家族の一員のように扱われた日本人奴隷もいれば、スペイン人の夫に嫉妬してひどいやり方でスペイン女性に殺された日本人の女性の奴隷もいる。

とにかく読み出したら止まらなくなった。筆者が学者でもあり、文献調査は慎重で、どこかのトンデモ本ではないことも理由としてあげたい。安心して読める貴重な本だと思う。倭寇の研究も進んでいるものと思う。これも良書があれば読んでみたい。

 

翻訳書で著書の奥さんの書評

UTokyo BiblioPlaza - 大航海時代の日本人奴隷