やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

ボーイング社のビジネスプランが失敗すると太平洋島嶼国の離島にインターネットが繋がる話

ボーイング社のビジネスプランが失敗すると太平洋島嶼国の離島にインターネットが繋がる話

 2005年太平洋をカバーするAMERICOM-23 (AMC-23) という衛星が打ち上げられた。この衛星は下記の利用目的があった。

1) 太平洋にある米軍基地が使用するため。また米軍が太平洋上空で使用するため。

2) アラスカからオーストラリアまでをカバーするデータ、音声、映像の情報通信サービスをビジネスに提供するため。

3) アメリカと環太平洋に地域放送を提供するため。

4) 航空機、船舶にハイスピードインターネットサービスを提供するため。

 最後の4にある航空機の乗客にインターネットサービスを提供する予定であったボーイング社のビジネスプランが見事に外れた。なぜか。インターネットを使用するために食う電力、即ち追加燃料代がばかにならない。特に燃料代が高騰している時期であった。

 もう一点、環太平洋諸国と米国を結ぶフライトは夜行便が多く、乗客はインターネットを利用しないで寝てしまう、ということがわかった。

 それでボーイング社は利用するはずだった衛星回線を安く売り払ったのである。

 ここに社会貢献精神に満ちたオーストラリアの企業が手をあげた。Pactel International(Pacific Teleportから社名変更)と言う。

 ボーイング社が不要になった衛星回線で太平洋島嶼国の離島に安いインターネットサービスを提供しようと言うアイデアを政府地域機関のSPC(太平洋共同体事務局)に持ち込んだ。事務局総裁のジミー・ロジャース博士がオーストラリア政府を動かし、2億円の援助資金を獲得。

 現在数百の地球局が離島に設置され、教育、医療、政府サービス、ビジネス等に使用されている。この事業はPACRICSと称する。

 AusAIDの支援は昨年終了した。しかしこのサービスの有効性をITU, ADB, EU等が高く評価し、地球局は未だ拡散し続けている。

 2003年に設立されたPactel Internationalの幹部に会う機会があった。2010年、ハワイでアレンジしたNOAAとの会議の席である。

 若い。年は聞かなかったが30代後半から40代前半。しかもカッコイイ。見た目もだが、中身だ。AusAIDが終了し継続が難しくなった地球局はタダでサービスを提供する、という。

 「お金儲けだけじゃないんだ。自分の夢を叶えたい。」

 アダム・スミスも見えざる手のジュピターも喜ぶであろう。

(文責:早川理恵子)