『沈黙の海』ー
イサベラ・ロヴィーン著 佐藤吉宗訳
新評論 2009年
魚の本が面白い。これで4冊目だ。
著者イサベラ・ロヴィーン女史はジャーナリストとして魚の問題を取り上げ、自分自身の人生も大きく変えた。今欧州議会議員として魚の問題に関わっている。
共感を覚えるのが、自分と同様に漁業問題や環境問題の専門家でもないし、まして漁師ではない。漁業と関係の深い政治家や企業とも関係ない。魚がいなくなるなんてどこかの環境団体が大げさに騒いでいるだけ、とこれもまた自分同様なレベルの出発点にいたことだ。
スウェーデンの漁業行政と漁業産業の関係、政治家の関わり方、今の日本の事を書いているのではないか、と思う事しばしばであった。これは地球の裏側、「スウェーデンの話しだよな。」と何度も自分に念を押した。
この本には日本の事は全く出て来ない。なので魚の話しが「西洋文化vs日本文化」というコンテクストで論議する事がウソであることを逆にわからせてくれる。
国際的な漁業の議論でいつも目立っているスペインの問題もよくわかった。面白いのは独裁者フランコ将軍(1892ー1975)がスペインを再び世界の海洋国家にすべく、漁船を3倍に増やした事が、現在欧州の中でもスペインが漁業保護(漁業資源保護ではない)を強力に進める原因である、ということだ。
本のタイトル「沈黙の海」はレイチェル・カーソンの「沈黙の春」から取って来たもの。カーソンの記述は科学的でありながらどこまでも詩的で、多くの人の心をつかんだ。ロヴィーン女史の沈黙は、もっと現実的で庶民的。欧州議会の無駄な通訳や事務職員のジャラジャラしたアクセサリーが気になる。税金はどこに消えるのか?
確かに、もし魚がイルカや鯨のように、もしくはディズニーのニモのようにまぶたを持っていたら、人間は魚達の声に耳を傾けたかもしれない。
イサベラ・ロヴィーン女史来日の際の講演が下記のビデオで見れる。