やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

太平洋で展開する日米コモンアジェンダ

太平洋で展開する日米コモンアジェンダ

 太平洋島嶼国を舞台に、海洋問題を取り上げ日米同盟の新たな方向を模索しようとする試みは、今に始まったことではない。

 最近ほとんど話題に出て来ないようだが、かつて「日米コモンアジェンダ」といプロジェクトがあった。そしてパラオに代表的事業がある。2001年1月に開館した国際珊瑚礁センターだ。

 日米コモンアジェンダの協議が始まったのが1993年。パラオ、日本、米国の3カ国協議が開始されたのが1996年。

 同センタ―設置に当たってはパラオ政府が土地を提供し、日本政府が無償資金援助(8.3億円)で箱を提供。米国は?というと既に自由連合協定でパラオ政府に支援しているので何も出さなかったそうである。彼らの言い分ではセンターが必要な道路も水道電気等のインフラ等既に米国が支援している、ということだったらしい。

 

 米国政府が一銭も出していないセンターに米国の研究者が巾を利かせる。これを面白くないと思った日本政府担当者が多い。さながら日米コモンアジェンダが、コンフリクトアジェンダになっている様相だった。

 そもそも珊瑚礁研究者達は日米同盟という政治的アジェンダには関心がないようだし、逆に”純粋”な研究を政治に利用されたくない、と思っている研究者が多い。同センターを日本の研究者も多く利用しているし、JICAから常に専門家が派遣され、現地のキャパビル支援も継続している。しかし地元の研究者を束ね組織的に活動する米国の研究者とは競争にならない、とも聞く。日米の共同研究がされた、という話しは聞いた事がない。

 日米コモンアジェンダ、日米協力は何処に、と言った感じだ。

 

 それよりも例の「持続性」の問題の方が深刻だ。

 同センターの運営はパラオ政府に任されている。運営費を自ら用立てなければならない。設立計画当時からの課題だったようで、この件でも何度も関係者から相談を受けた。生憎笹川太平洋島嶼基金にそのよう支援スキームはない。そもそもビジネス計画も無くセンター設置をしたのだろうか?

 ここから学べる事は、いくら上の方で崇高なポリシーや計画を策定しても現場ではそのポリシーが、哲学が無視されてしまうことだ。ODAのそんな例はいくらでも出てきそうだ。

 話しを太平洋島サミットに戻すと「海洋外交」を掲げたのはすばらしいがそれをフォローする仕組みが必要であろう、ということだ。それこそクリントン長官の言うPPP-Public–private partnershipが必要になってくるだろう。

 日米同盟不在のパラオ国際珊瑚礁センターを巡るグッドニュースもある。

 このブログでも何回か取り上げているミクロネシアチャンレンジの事務局が同センター内に2、3年前に設置された。ミクロネシアチャレンジはグアム、マリアナ諸島も含むミクロネシア地域の沿岸保護活動の枠組みで米国の支援が大きい。このミクロネシアチャレンジの活動が同センターを中心に展開され始めた、というのだ。

 つまり、米国が支援するミクロネシアチャレンジと、日本が支援する国際珊瑚礁センターが手を結んだ、というわけである。まだ日米の歩み寄りの話は聞いてない。