やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

安倍首相の太平洋訪問に向けて(6)小さな島国のEEZは誰が守るのか?

昨年、琉球大学が主催した「島と海」のシンポジウムでは、発表する機会もいただき、あらためて小さな島国が大きなEEZ保有、管理する権利と義務について考える機会があった。

年明けの寺島常務との面談では、太平洋の広大な海がほぼ全域、島々が点在する事によってどこかのEEZになっており、太平洋を通行する際はこのEEZを通らなければならない、という御指摘があった。

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この図をると太平洋島嶼国のEEZがあたかも豪州NZの防壁となっているようにも見える。

(図をクリックすると拡大できます。)

EEZ主権国家が黙って授かるモノではなく、自ら申請し獲得するモノだ。権利でもあるが、EEZを守るという義務も発生する。

EEZの議論が盛んだった70年代、主権国家となっていた太平洋島嶼国は3カ国だけ。独立を目の前にしていたのは数カ国。フィジー以外は広大なEEZ保有、管理する事に積極的ではなかったようだ。

 

<70年代前に独立した島嶼国>

Samoa (1962).

Then Nauru (1968),

Fiji (1970),

<70年代に独立した島嶼国>

Papua New Guinea (1975),

Tuvalu (1978),

Solomon Islands (1978),

Kiribati (1979).

では誰が押したのか?この広い太平洋を防壁にしたいのはNZ豪ではなかったか?だからこそ島嶼国のEEZ確立と共に豪州はPPBPの事業を立ち上げたのでないであろうか?ここら辺はまだ想像で確証は得ていない。

ところで小さな島国はそのEEZを管理する義務を遂行しているのであろうか?

以前弊ブログに書いた、人口一人当たりのEEZである。琉球大学のシンポジウムでは、海上保安庁の参加者の方から、人口以外にGNPでも比較する必要を指摘いただいたがまだやっていない。

人口一人当たり東京ドーム半分のEEZ「しか」ない日本と、人口一人当たり650個分ものEEZを抱えるパラオ。経済力は日本の方が大きい事は数字を出すにも及ばないであろう。即ち先進国日NZ豪とパラオなどの島国のEEZ管理能力は下記の数字から読み取れる違いよりはるかに大きい。

人口一人当たりのEEZを東京ドームで測ると

(下記の数字はざっと計算しただけなので、引用しないでください。イメージを掴む範囲で参照いただければ幸いです。)

半分強―日本

10個分―オーストラリア

20個分―ニュージーランド

580個分―ミクロネシア連邦

650個分―パラオ共和国

720個分―キリバス

760個分―マーシャル諸島

正直に言って太平洋島嶼国が自力でその広大なEEZを管理する事は不可能である、と言わざるを得ない。

それでは、太平洋の島嶼国に対し、管理できなのだからEEZは放棄しないさい、と言ったらどなるであろうら?太平洋に今度は巨大な公海が誕生する事になる。

この公海とEEZの違いは何か?誰の者でもない公海であれば魚取り放題、海底資源も開発し放題。(厳密にはそうでないと思いますが。)EEZを制定した海洋ですらIUUだらけなのである。

そしてパラオのレメンゲサウ大統領が指摘するように、島嶼国のEEZの資源を主に消費するのは大国なのだ。

公海にして国際的に管理する方向を探るか?島嶼国の主権下において管理する方向を探るか?

法執行が容易なのでは後者であろう。

しかし、相当な支援をする必要がある。しかも主権国家の法執行権に介入する可能性もあり諸刃の刃にもなりかねない。政治的なバランスも必要だ。

島嶼国が支援を望んでいる事も事実だ。

米豪の裏庭であるはずの太平洋で、冷戦終結以降海洋の管理は殆ど行われていない。中国の脅威ばかりがメディアで取り上げられているが、それより脅威なのは漁業資源の枯渇だ。そして、太平洋の島々をステップストーンにして行われている人身売買、麻薬取引、密輸、密航等々で、これは太平洋周辺国、即ち米日豪NZを最終目的地としている。

安倍総理のアジア太平洋外交と海洋外交。日本の役割を改めて期待したい。