やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』江崎道朗著

私が近現代史を全く知らない事を反省したのは、ミクロネシアと日本の関係を理解するには第一次世界大戦前後ははずせない、と今更のように思い返した事と、2015年の天皇陛下のお言葉を知ったからである。

天皇陛下のご感想(新年に当たり)

満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています。」

近現代史はあまりに複雑で「陰謀論」を持って来るとわかりやすいため「陰謀論」につい走ってしまうと筒井清忠教授から伺ってから資料は慎重に選ばなければ、と思うようになった。他方、新渡戸稲造が「日本を滅ぼすのは軍閥共産主義」と述べた事を知って何某かの「陰謀」はあったのではないかと思うようになったし、軍閥でも共産主義でもない立場はとは?と言う疑問も持つようになった。

出版一月もしないうちに重版を重ねている江崎道朗著『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』はそのような私の疑問に答えてくれる内容であった。

まず読みやすい。

今まで手にした近現代史の本は「あまりに複雑」で頭に入らないものが多かった。伊藤隆先生の本などである。江崎氏は複雑な近現代史をなるべくわかりやすく、歴史専門家でない人も読めるように編集されたのだと思う。それでも新書なのに400ページもある。

バランスが取れている。

今まで読んだ本はどちらかと言うと、右か左、善悪で分けて書かれているような印象がある。この本は共産主義が隆盛した原因なども丁寧に書いている。共産主義が悪い悪いと言うが、ではなぜあそこまで多くの人々が支持したのかわかったような気がする。

多岐に渡る項目。次々とさらなる疑問が湧いて来る。例えばレーニンが主導するコミンテルンは私が関心を持つ「自決権」の話にもつながるのでじっくり読みたい箇所である。欧米のアカデミズムが早くから共産主義やレーニンを捨てたのに対し、日本のアカデミズはなぜ最近まで支持してきたのであろうか?それはもしかしたら「保守自由主義」が未だに弱者を救えていないからではないだろうか?など。

最後に、新渡戸稲造ファンの当方としては、新渡戸が一切出てこないのが多少不満であった。が、それぞれの記述に新渡戸がどのように影響し関与していたか想像しながら読んだ。

特に聖徳太子研究の箇所だ。以前このブログに書いた新渡戸の『日本-その問題と発展の諸局面』には聖徳太子が何をしたか賛美と共に詳細と分析が綴られているのだ。小田村寅次郎と新渡戸は年齢が大きく離れているが、誰か介して繋がっているのではないだろうか?

これだけの情報量である。新書とはいえ、索引が欲しい。