やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

good news - bad news

good news - bad news  良いニュースがあれば悪いニュースが出て来る。きっと世の中はそういうものだ。  昨年のハワイ出張で得たgood news とbad news.   笹川太平洋島嶼基金は1991年からPEACESAT事業を支援し、共に活動してきた。PEACESATは冷戦最中に衛星の平和利用を提唱したケネディ政権の落とし子であり、冷戦終結以降はダニエル・イノウエ議員の格別な支援を受けて継続して来た。  PEACESAT - Pan Pacific Education and Communication Experiment Satellite は"Experiment"がついているように実験である。NASAの中古衛星を利用しながら40年近く運営され、USPNetやFFAの運営基盤となっていた。実験を越えた公的機関の実用ネットワークだった。  それが、90年代半ばから衛星の自由化に伴い、どんどん衛星通信が安くなり、PEACESATの存在意義が薄れて来た。ハワイ大学はこの実験事業に予算を確保するための努力が必要とされていた。  イノウエ議員のサポートもあり連邦政府のPublic Telecommunications Facilities Programから毎年約5千万円の予算を確保。10年近くこの予算でなんとかつないできたが、米国政府の財政難から昨年このプログラムが突然中止され、ハワイ大学のPEACESATはただならぬ様子である事が気配でわかった。  ディレクターのクリスティーナ・ヒガ女史とは20年来の知り合いであるが、彼女はこれから組織のスリム化、整理をする立場にあるようだった。なんと声をかけていいのか言葉に詰まった。  これがbad newsだ。  PAECESATとは何か、という議論をイノウエ議員としたい。対太平洋島嶼国支援の原型がそこにあるような気がしている。ハワイ選出のイノウエ議員は米国で太平洋島嶼国に関心を寄せる数少ない政治家のリーダーだ。  もしもNASAの中古衛星を利用した物理的な無料公共サービス、という定義であればその命は終焉を迎えたのであろう。しかし、もっと哲学的な定義、即ち市場経済が相手にしない小規模経済の離島の人々の福祉、命を助ける通信手段というコンセプトであるとしたら、もう一つのgood newsもPEACESATがらみだ。  グアム大学のPEACESAT局には、20年来の知り合いで笹川太平洋島嶼基金の助成先でもあるブルース・ベスト氏がいる。  ボランティアで無線ネットワークを利用しミクロネシアの離島に毎日お天気情報を流している。もう40年近くやっているはずだ。彼がいなければ何十人、何百人の離島の人々の命が失われていた。ミクロネシアの離島はこのHFが唯一の通信手段である。USCGが行う海難救助活動も支援してきた。  彼が発明したのがChatty Beetle である。  各離島では首長の家にHFの機材が置かれる。しかし、津波や台風の警報を伝えたい時、もし首長が不在だったり、寝ていたらどうするのか? Chatty Beetle は緊急警報を音で知らせるシステムだ。  通信技術の発達で、HFラジオでも静止画、emailが送れる様になった。豪州のPPBPもインマルサットからHFに切り替えた。HFは無料でしかもライセンス不要。NOAA, FEMA, 世界気象機関, EU等々から注目され、USAIDで10台程ミクロネシアの離島に配られることが決まったという。
 HFネットワークが100近いミクロネシアの離島に張り巡らされているのは笹川太平洋島嶼基金の成果なのである。  これがgood newsだ。