やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

天皇皇后両陛下パラオ訪問 その2

天皇皇后両陛下パラオ訪問に関する記事を追っているが、だれも「お言葉」の内容について吟味していないように思える。

気になっていたのがミクロネシア諸国をどのように表しているかだった。

羽田空港でのお言葉 では、

パラオ共和国は、ミクロネシア連邦マーシャル諸島共和国と共に、第一次世界大戦まではドイツの植民地でしたが、戦後、ヴェルサイユ条約及び国際連盟の決定により、我が国の委任統治の下に置かれました。そしてパラオには南洋庁が置かれ、我が国から多くの人々が移住し、昭和十年頃には、島民の数より多い五万人を超える人々が、これらの島々に住むようになりました。」

晩餐会でのご答辞 では、

ミクロネシア地域は第一次世界大戦後、国際連盟の下で、日本の委任統治になりました。パラオには、南洋庁が設置され、多くの日本人が移住してきました。」

下線は当方が引いた。

どちらのお言葉にも明確に「国際連盟の下で、(決定で)日本の委任統治領」となったと述べている。

そして、重要なのがドイツの支配を「植民地」として委任統治と分けていることである。

この委任統治に関しては、おなじみの矢内原忠雄先生が『植民政策より見たる委任統治制度』という文章を書いている。これを読まずに、委任統治、そして戦後の信託統治、そして現在の自由連合協定を語ってはいけない。断言する。

委任統治も植民の一つの形態である。人間の歴史は植民の歴史でもある。

しかし、西洋諸国による過去数百年の植民の歴史は、搾取、奴隷、殺戮等々、人類史始まって以来の世界的規模の非人道的行いであった。

なので「植民」と聞くとみんな、コロンブスを、コンゴの闇の奥を思い出してしまうのである。

その中で米国と其の他の戦勝国の間での妥協の産物であったー委任統治は人道的標榜において一歩を進めたものである、と矢内原先生は言う。

矢内原先生はさらに、

「。。。第二の世界大戦を避け得ないとしても。。。委任統治制度よりも更に効果的なる非帝国主義的植民地統治の制度が設けられるのではあるまいか。」

と述べている。

天皇陛下は、またこのお言葉の草稿に関わった方々は、新渡戸稲造矢内原忠雄も、そしてこの2人の師匠であるアダム・スミスもしっかり読んでいた事は間違いない。

海外のメディアBBC, ABCが日本の戦争責任に触れているのだが、上記の件はまったく触れていない。知っていて触れていないのか、知らないのか。

"Japan emperor marks Palau war dead"

BBC 9 April 2015

http://www.bbc.com/news/world-asia-32229358

"But his visit comes amid concerns among Japan's neighbours that its current government, led by nationalist Shinzo Abe, is unrepentant about wartime actions.

Earlier this week, China and South Korea protested over newly approved school textbooks which they said glossed over events such as the Nanjing massacre.

The BBC's Rupert Wingfield-Hayes, in Tokyo, says that while the current government might be keen for people to forget the horrors wrought by Japan, in his own subtle way Emperor Akihito is sending a different message."

"Large crowds welcome Japan's emperor and empress to Palau during visit to mourn war dead"

ABC News

http://www.abc.net.au/news/2015-04-09/japan-emperor-in-palau-on-wwii-visit/6379626

"The two-day trip comes 10 years after Emperor Akihito visited Saipan to pay respects to war dead, the only other time he has visited a former colony to do so.

Japan has made a number of apologies for its conduct up to and during WWII, including a key 1995 statement of "deep remorse" for the "colonial rule and aggression" visited on the people of Asia."