やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

読書メモ『植民政策より見たる委任統治制度』矢内原忠雄

五十嵐元道著、「国際信託統治の歴史的起源 帝国から国際組織へ」を読んで、以前読んだ『植民政策より見たる委任統治制度』矢内原忠雄著を再読した。

この論文は矢内原全集第4巻(170ー195頁、岩波書店、1963年)に収められているが、出版されたのは昭和12年7月「国家学会50周年記念国家学会論集」である。

昭和12年、1937年は矢内原が東大を追われた年である。

この論文は「帝国主義研究」と題して11本の論文が収められており、『植民政策より見たる委任統治制度』はその一つだ。昭和23年の本のはしがきには多忙でほとんど修正加筆することなく世に送るとある。

『植民政策より見たる委任統治制度』のタイトルの横には「故新渡戸博士にささぐ」とある。即ち新渡戸が国際連盟の政策、制度の一つである委任統治制度を植民政策として語っていたか、矢内原に議論して欲しかったか。とにかく、矢内原は新渡戸の想いを4年後に発表したのではないか。よって委任統治制度に全体として前向きな議論がされている印象を持った。

論文は以下の構成

第一節 委任統治制度と植民地分割

 第一項 沿革的

 第二項 法律的

 第三項 政治的

第二節 委任統治制度と門戸開放

第三節 委任統治制度と住民の保護

第四節 委任統治制度の歴史性

委任統治制度、信託統治自由連合、提携国家、という議論をできれば、自決権のあり方の中で議論してみたいのである。太平洋島嶼国の海洋管理がこの枠組みで議論できないだろうか?

中国が、EEZは沿岸国の能力で決まる、と言っているそうだが、それは海洋法を理解していない、とも言えるが現実を知っているとも言える。実際、フィリピンの海底油田を共同開発と言いつつ、中国が資金をだして開始しているではないか。

フィリピンでさえこの状態。島嶼国なんか赤子の手をひねるも同然。

さて矢内原の論文だが1、委任統治制度がベルサイユ会議でどのように議論され、委任統治が植民地制度かどうか、「植民地なる概念を如何に規定するかを前提する」(矢内原全集 180頁)という箇所は、五十嵐論文の人道介入が植民とどう違うのか、という箇所と関連して来ると思う。

五十嵐論文には「植民」を学問的に議論する事が避けられている、という指摘だけがある。

門戸開放の節では、委任統治のc式が帝国主義的独占ブロックである事を指摘。これは現在太平洋島嶼国が豪州、ニュージーランド、米国といった限られた国との経済活動に限られている事にも関係しているように思う。アジア市場への開放。。

第三節では土民保護と奴隷売買、資本の非開明的搾取に反対しつつも、合理的搾取を否定するものではない、という指摘はするどい。これは今にも続いているのではないか。(188頁)

第四節 委任統治の起源が 1815年のウィーン会議、1885年のベルリン条約、1890年のブラッセル条約があげられている。委任統治帝国主義の一環と捉えながらも非帝国主義的植民地統治の制度が設けられる事を提案している。

「要するに委任統治制度は。。。帝国主義時代の中に存在する一制度である。。。。委任統治制度が帝国主義の決定的なる変更を促進するか、或は帝国主義委任統治制度を骨抜きにするかは、帝国主義そのものの運命、即ち世界資本主義の一般的展開に待つものである。」194頁

新渡戸、矢内原の植民政策とはまさに現在の開発経済政策だったのだ。矢内原先生は植民を否定していない。それは一般に理解されているものと違うからだ。