やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

再びバヌアツのタックスヘブン

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当方のボスの一人、羽生会長からバヌアツサイクロン被害に関わる情報を収集報告せよ、との指示をいただいてから、タックスヘブンの事を必ず報告せねば、と心に決めていた。

タックスヘブンを知らずに、バヌアツを、太平洋島嶼国を語ってはいけいないのである。

「バヌアツのタックスヘブン」

http://blog.canpan.info/yashinomi/archive/1155

それで、以前読んだGreg Rawlings博士のペーパーをさらっと読みで、さらっと書いたところ、羽生会長の理解はなにやらさらっとしたものになってしまったようで「まずい」とここ数週間悩んでいた。

タックスヘブンを巡る話は、ハイポリティクス、テロ、金融マフィア、越境犯罪組織から小金持の父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん、姉ちゃんまで巻き込む魑魅魍魎の跋扈する、実はオドロオドロな話なのである。

そこで、下記のRawlings博士ペーパーを読み直した。

そのオドロオドロの部分に迫ってみたい。

Rawlings, Gregory (2004) “Laws, Liquidity and Eurobonds: The Making of the Vanuatu Tax Haven.” In The Journal of Pacific History, Vol. 39, No.3: 325-341.

<オドロオドロな父ちゃん母ちゃんのタックスヘブン>

Rawlings博士のペーパーはバヌアツのタックスヘブンを利用した"mum-and-dad 投資家" ー「父ちゃん母ちゃん投資家」の話から始まる。

ニュージーランドでビジネスに成功したDoreen, Barry Beazley夫妻。そのビジネスを売却しオーストラリアのクイーンズランドに移り住んだ。これが70年代。バヌアツのタックスヘブンが始まった頃である。

1999年、オーストラリア連邦裁判所は同夫妻がスイスの銀行に13ミリオン豪ドルを預金をしてたが20年間税金を一切払わなかった事を追求。その預金はバヌアツのTrusteeが運営していた。

オーストラリア国家犯罪当局は1989-/90から1995/96の6年間同夫妻に$A4,322,968の収入があり,A$1,080,742の税金を払わなかった事を申し立てたが、夫妻はバヌアツのTrusteeに貸したお金が戻って、それを使っているだけだ、と抗弁。

裁判所の判断は「完璧に合法」だが「罪深き行い」 "entirely legal" - "a guilty mind" とのこと。

Beazley夫妻、お構いなし、となったのである。

<オドロオドロなロシアマフィアのタックスヘブン>

同じ年、1999年にはロシアマフィアが107ビリオン豪州ドルを、ナウルにある400のオフショア銀行を利用してマネーロンダリングを行った、とのニュースは余りにも有名。

このお金がバヌアツ始め、世界の金融センターをグルグル回っている可能性はある。

同じ時期、ナウル政府は、南アメリカの薬品カルテルのために金融センターをナウルに設置したパナマの法律事務所との契約を否定。

2003年にはオーストラリア税務署の調査では295ミリオン豪州ドルがオーストラリアからバヌアツに送金され、その中の60ケースが租税回避を目的としている、と指摘。

オドロオドロなタックスヘブンの話はキリがない。

<オドロオドロなタックスヘブンの歴史>

インターネットのおかげで、タックスヘブンはますます盛んになったが、タックスヘブンの歴史は1930年に遡る。場所はカリブ。バハマが舞台。

しかし、バヌアツがタックスヘブンを導入した70年代、バハマは独立を手にしたと同時に政治的信用を国際社会から失ってしまったのである。

バヌアツが格好のターゲットになった。バハマのタックスヘブンのお金が大量に流れ込んだのだ。

<オドロオドロなケインズとホワイトの抗争>

Rawlings博士のペーパーの主点は70−80年代のバヌアツのタックスヘブン形成の動きだ。

その背景にあるのがブレトンウッズ体制。下記に詳しく書かれているらしい、米国のホワイトと英国のケインズの抗争は時間のある時にゆっくり読んでみたい。

『ブレトンウッズの闘い ケインズ、ホワイトと新世界秩序の創造 』

要は、ケインズが米国のホワイトに負けて、米ドルが世界の基軸通貨になったという話だと思いますが、話はそんなに簡単ではない。このブレトンウッズ体制で、ケインズは資本が海外に逃げないような規制を作る事を主張していたが、無視された。皮肉な結果に、世界金融を管理するはずのブレトンウッズ体制は、米国に集まったお金をレッセフェールの下、自由に逃がす機会を作ったのである。

さらに皮肉な事に、NYに集まったUSドルは、ケインズの英国を始めとするヨーロッパに集まったのだ。

1946年に亡くなったケインズ先生が生きていたら、この結果をどのように評価するであろうか?

<オドロオドロな英国金融界>

英国、ヨーロッパに逃げた米ドルは半端な金額ではなかった。何兆円、何十兆円という世界。

しかし、英国内にはしっかりした金融規制があるためレッセフェールとはいかない。

そこで英国は50−70年代、植民地の島や飛び地を次々に独立させオフィショア金融センターを設置したのである。その代表例が、ケイマン、バミューダ、香港、ジブラルタル、そしてニューヘブリデス、現在のバヌアツ共和国である。

同盟国であるはずの英米が世界金融の動きを巡って戦う図式が生まれた。

また、巨大な資金と関係のないフランスやオーストラリアは、英国が進めるタックスヘブンの動きを阻止しようとした。一度その制度ができれば、冒頭に紹介したような「父ちゃん母ちゃん投資家」や犯罪組織の温床になる事確実だからである。

以上、Rawlings博士のペーパーをまとめてましたが、当方金融問題もチンプンカンプンですので、英語が苦でなく、多少のお時間がある方が原文を読まれる事をお薦めします。ついでに当方の記述に間違いがあれば指摘していただけると嬉しいです。

さて、オドロオドロなタックスヘブン、まだ続きます。

次回がオドロオドロなインターネットギャンブル。

登場人物だけ先にご紹介。

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