やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

オバマ大統領に説教するレメンゲザウ大統領(3)

ハワイで開催されたIUCNの総会での、パラオ、レメンゲザウ大統領のスピーチ。

他にも気になる内容がある。以下大統領のスピーチから。

パラオのEEZ80%を海洋保護区とした(この小国の)努力は世界に貢献したか?

現在の世界の海洋保護区は2%である。科学者は30%を保護区にすべし、と言っている。

レメンゲサウ大統領は、80%の海洋保護区にした自国を自慢しているわけだ。

IUCN総会の会場は大喝采!

2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議では、2020年までに世界の海域の10%を海洋保護区に指定するという数値目標が盛り込まれた。

さて、この80%の海洋保護区は11月に迎えるパラオの大統領選の争点になっている。IUCN総会で大喝采を送った参加者は知らないであろう。

1.大統領がこの保護区案を宣伝しながら度々海外出張している間、パラオ国民は水不足、下水道問題などの基本的インフラで命が脅かされてた。魚と国民,どっちが大事なの?

2.この海洋保護区の目玉は保護区にして失う入漁料代わりとなる信託基金の設置。しかしこの基金運営の透明性が問題視され、現在叩かれている様子。

3.さらにこの海洋保護区を推進するPEW財団は信託基金設置を牛耳っているだけで、海洋監視など実際には何もしていない。やっているのは日本財団笹川平和財団だけ。

これだけではない。この80%の海洋保護区案は国連海洋法条約に反しているのだ。

当方は最近日本の国際海洋法の権威から直接伺って目が丸くなり、未だに丸いままだ。

この事を日本の外務省も水産庁国交省、海保も誰も指摘していなかったからだ。

早速、国連海洋法条約を調べて、パラオの関係者にも知らせた。レメンゲサウ大統領の海洋保護区案と国連海洋法条約との整合性は協議されるべきではなかろうか?

同条約の「第六十二条 生物資源の利用」なのだと思う。下記にコピペしておく。

データベース『世界と日本』戦後日本政治・国際関係データベース、東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室から。

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19821210.T1J.html

パラオの80%の海洋保護区に関連するのではないか?と思われる箇所に下線を引いておく。

第六十二条 生物資源の利用

1 沿岸国は、前条の規定の適用を妨げることなく、排他的経済水域における生物資源の最適利用の目的を促進する。

沿岸国は、排他的経済水域における生物資源についての自国の漁獲能力を決定する。沿岸国は、自国が漁獲可能量のすべてを漁獲する能力を有しない場合には、協定その他の取極により、4に規定する条件及び法令に従い、第六十九条及び第七十条の規定(特に開発途上国に関するもの)に特別の考慮を払って漁獲可能量の余剰分の他の国による漁獲を認める。

3 沿岸国は、この条の規定に基づく他の国による自国の排他的経済水域における漁獲を認めるに当たり、すべての関連要因、特に、自国の経済その他の国家的利益にとっての当該排他的経済水域における生物資源の重要性、第六十九条及び第七十条の規定、小地域又は地域の開発途上国が余剰分の一部を漁獲する必要性、その国民が伝統的に当該排他的経済水域で漁獲を行ってきた国又は資源の調査及び識別に実質的な努力を払ってきた国における経済的混乱を最小のものにとどめる必要性等の関連要因を考慮する。

排他的経済水域において漁獲を行う他の国の国民は、沿岸国の法令に定める保存措置及び他の条件を遵守する。これらの法令は、この条約に適合するものとし、また、特に次の事項に及ぶことができる。

(a) 漁業者、漁船及び設備に関する許可証の発給(手数料その他の形態の報酬の支払を含む、これらの支払は、沿岸国である開発途上国の場合については、水産業に関する財政、設備及び技術の分野での十分な補償から成ることができる。)

(b) 漁獲することのできる種及び漁獲割当ての決定。この漁獲割当てについては、特定の資源若しくは資源群の漁獲、一定の期間における一隻当たりの漁獲又は特定の期間におけるいずれかの国の国民による漁獲のいずれについてのものであるかを問わない。

(c) 漁期及び漁場、漁具の種類、大きさ及び数量並びに利用することのできる漁船の種類、大きさ及び数の規制

(d) 漁獲することのできる魚その他の種の年齢及び大きさの決定

(e) 漁船に関して必要とされる情報(漁獲量及び漁獲努力量に関する統計並びに漁船の位置に関する報告を含む。)の明示

(f) 沿岸国の許可及び規制の下で特定の漁業に関する調査計画の実施を要求すること並びにそのような調査の実施(漁獲物の標本の抽出、標本の処理及び関連する科学的データの提供を含む。)を規制すること

(g) 沿岸国の監視員又は訓練生の漁船への乗船

(h) 漁船による漁獲量の全部又は一部の沿岸国の港への陸揚げ

(i) 合弁事業に関し又はその他の協力についての取決めに関する条件

(j) 要員の訓練及び漁業技術の移転(沿岸国の漁業に関する調査を行う能力の向上を含む)のための要件

(k) 取締手続

5 沿岸国は、保存及び管理に関する法令について適当な通報を行う。