やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

中国進出を誘うパプアニューギニアの太平洋経済特区計画:Pacific Marine Industrial Zone

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今のところ「絵に描いた餅」の太平洋経済特区計画:Pacific Marine Industrial Zone

中国の太平洋進出を手招きしているのが、島嶼国なのである。

違法操業を推進しているのが、実は島嶼国なのである。

この現実を知らずに、島嶼国が犠牲者で、日本の水産業が悪者であるかのような認識が日本のイエロージャーナリズムを通して、またイエローNGOを通して広く国民に、世界の人々に浸透してしまっている現状をなんとか打開したい。

この誤認識のままで、何十億円もの予算が動き、国連まで動いてしまうのだから。。

前回紹介したヤップの違法操業の件は、元の記事が和訳された事もあり、多くのアクセスがあった。

今回紹介するのは、パプアニューギニアの北部、マダンの近くで繰り広げられている缶詰工場経済特区計画の件だ。

年間数千億円の利益が期待でき、10のマグロ加工工場が経済特区に建設される計画で、地元に25,000人の雇用も生む、という触込みだ。

島嶼国との漁業権交渉は複雑だ。単純に漁業権だけの交渉ではなく、関連する島嶼国の地元産業の支援と引き換え、の面が強い。これで成功しているのがフィリピン。*

フィリピンと中国は、島嶼国に缶詰工場を作り地元雇用を産み出す、という戦略で漁場を獲得している。

しかし、本当にうまく行っているんだろうか?

悪い事しかニュースにならないので、ここにあげる件だけでは判断してはならないが、ヤップ同様パプアニューギニアの一村落で、適切な評価(環境インパクト、社会インパクトなど)や法的手順をほとんど踏んでいない、というレポートである。しかもパプアニューギニアのケースはオニール首相のお墨付きである。

工事も進まない中で、地元政府の負担金だけ嵩むという最悪のケースになる、のだろうか?ダイヤモンドセキュリティ構想、インド太平洋戦略のインフラ支援でどうにかならないものだろうか?

Patrick Gesch, Patrick Matbob. The Pacific Marine Industrial Zone and the Village:Strategies to convert the resource boom into development. Contemporary PNG Studies: DWU Research Journal Vol. 24 May 2016. 71-85.

関連ユースは山程ある。

Papua New Guinea’s long-awaited Pacific Marine Industrial Zone launched

25 Nov 2015

http://www.looppng.com/business/%E2%80%8Bminister-wants-pmiz-local-content-66634

* この問題、海洋法の第62条 生物資源の利用 が関連していると思う。下記コピーしておく。

1 沿岸国は、前条の規定の適用を妨げることなく、排他的経済水域における生物資源の最適利用の目的を促進する。

2 沿岸国は、排他的経済水域における生物資源についての自国の漁獲能力を決定する。沿岸国は、自国が漁獲可能量のすべてを漁獲する能力を有しない場合には、協定その他の取極により、4に規定する条件及び法令に従い、第69条及び第70条の規定(特に開発途上国に関するもの)に特別の考慮を払って漁獲可能量の余剰分の他の国による漁獲を認める。

3 沿岸国は、この条の規定に基づく他の国による自国の排他的経済水域における漁獲を認めるに当たり、すべての関連要因、特に、自国の経済その他の国家的利益にとっての当該排他的経済水域における生物資源の重要性、第69条及び第70条の規定、小地域又は地域の開発途上国か余剰分の一部を漁獲する必要性、その国民が伝続的に当該排他的経済水域で漁獲を行ってきた国又は資源の調査及び識別に実質的な努力を払ってきた国における経済的混乱を最小のものにとどめる必要性等の関連要因を考慮する。

4 排他的経済水域において漁獲を行う他の国の国民は、沿岸国の法令に定める保有措置及び他の条件を遵守する。これらの法令は、この条約に適合するものとし、また、特に次の事項に及ぶことができる。

a.漁業者、漁船及び設備に関する許可証の発給(手数料その他の形態の報酬の支払を含む。これらの支払は、沿岸国である開発途上国の場合については、水産業に関する財政、設備及び技術の分野での十分な補償から成ることができる。)

b.漁獲することのできる種及び漁獲割当ての決定。この漁獲割当てについては、特定の資源若しくは資源群の漁獲、一定の期間における一隻当たりの漁獲又は特定の期間におけるいずれかの国の国民による漁獲のいずれについてのものであるかを問わない。

c.漁期及び漁場、漁具の種類、大きさ及び数量並びに利用することのできる漁船の種類、大きさ及び数の規制

d.漁獲することのできる魚その他の種の年齢及び大きさの決定

e.漁船に関して必要とされる情報(漁獲量及び漁獲努力量に関する統計並びに漁船の位置に関する報告を含む。)の明示

f.沿岸国の許可及び規制の下で特定の漁業に関する調査計画の実施を要求すること並びにそのような調査の実施(漁獲物の標本の抽出、標本の処理及び関連する科学的データの提供を含む。)を規制すること。

g.沿岸国の監視員又は訓練生の漁船への乗船

h.漁船による漁獲量の全部又は一部の沿岸国の港への陸掲げ

i.合弁事業に関し又はその他の協力についての取決めに関する条件

j.要員の訓練及び漁業技術の移転(沿岸国の漁業に関する調査を行う能力の向上を含む。)のための要件

k.取締手続

5 沿岸国は、保存及び管理に関する法令について適当な通報を行う。