やしの実通信 by Dr Rieko Hayakawa

太平洋を渡り歩いて35年。島と海を国際政治、開発、海洋法の視点で見ていきます。

インド太平洋構想とAPECを繋ぐ海洋空間秩序

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APECの米中対決で思い出した陸のエレメントと海のエレメント。神話で言えばビヒモスとリヴァイアサン

昨日パプアニューギニアで開催されたAPEC。普段フォローしている太平洋島嶼国のジャーナリスト達が速攻で情報をTWしてくれるので、日本のどのメディアよりも早く知る事ができた。そして終日その流れを追ってしまった。

APEC首脳会議を追いながらアジア太平洋地域主義とインド太平洋の地域主義に思いを巡らせた。本当は色々資料を読み返してからまとめたいが忘れそうなので荒く先に書いておく。

太平洋島嶼国を扱う、という事は太平洋の地域主義を学ぶ事である。ついでに書くと1989年に創設された30億円の笹川太平洋島嶼国基金の目的から考える業務を担ってきた当方にとって基金目的・意義と自分の業務・ミッションは常に通奏低音のような課題であった。

過去30年、色々読んで一番頭に残っていたのは長富祐一郎さんの文章。渡辺昭夫先生編集の『アジア太平洋連帯構想』(2005NTT出版)に入っている。

「大平さんは総理就任前に1978年11月27日に、総理に就任したらどういう政策を行うかを「大平正芳の政策要綱資料」に取りまとめ公表されていた。「環太平洋連帯」という言葉は、この政策要綱資料に初めて登場して来る。政策要項資料は「環太平洋連帯(パシフィック・オーシャン・コミュニティ)の樹立」と題して次のように述べている。」27頁 

32歳の大蔵事務官、大平総理は本省主計局主査で文部省と南洋庁を担当していたのだ。29歳で興亜院にて大陸経営を経験した大平氏は大陸と海洋の空間秩序の違いを現場で認識していたであろう。

これもついでに書くと渡辺先生を笹川太平洋島嶼国基金に引っ張ってきたのも私である。(今は指導教官の坂元茂樹教授が財団理事として拉致(冗談)されている。笹川陽平氏は私の前で坂元先生を侮辱したのだ。不味いと思ったのであろう。)

「環太平洋連帯」構想はAPECに繋がって行く。大平総理の脳裏にあったハズの太平洋の海洋空間は入って来ない。これはフィジーのカミセセ・マラ首相が当時アジア太平洋の大きな枠組みに小国が入る事の不利を主張したから、だったはず。

もう一つ、『アジア太平洋連帯構想』の渡辺先生が書かれた序章「21世紀のアジア太平洋と日米中関係」には陸のアジアと海のアジアが書かれており、陸のアジアとは中国であるという。渡辺先生はカールシュミットの『海と陸と』を、若しくは『大地のノモス』を読まれているだろうか?

(閉じられた)大陸空間秩序と(自由で開かれた)海洋空間秩序 ー シュミットを引用すると陸のエレメントと海のエレメント、神話で言えばビヒモスとリヴァイアサンの闘争が世界史で展開されてきた事なのだ。どちらもコワイ怪物である。

今回のAPECが合意に至らなかった背景、そしてインド太平洋構想がそれに対して示す意味をグルグル考えている。海洋秩序はある程度海洋法条約の中で規定されているがそれはliving treatyと呼ばれるように常に蠢いているのだ。まさにビヒモスとリヴァイアサンの格闘が昨日展開され、それは海洋秩序が生き物として蠢いたのではないだろうか?

シュミットは宇宙のエレメントも予想しており、これはまさに米中で展開されそうな宇宙開発、即ち新たな空間秩序、法源が私たち前に待っている。ビヒモスとリヴァイアサンに続く怪物。。想像もしたくない。